grateful days 1
少年は特に何も思っていなかった。
ただ、いつの間にか赤ん坊の時からチャオを一匹持っていた。
と、親は言っていた。
少年がまだ、幼少の頃。
地元の保育園で少年はのんびりと育った。
友達も・・・ぼちぼち。運動も・・・ぼちぼち。
だけど、それで少年は何のしがらみもなく生きていた。
この時初めてチャオというものを少年は知った。
―・・・これがチャオ?
―そうよ。お母さんは、これが白くなることを願っているのよ。
―何で?
―それは、人間の「こころ」を映す鏡のようなものなの。
―こころ?
―そう。あなたが悪いことをしなければチャオは白くなっていくのよ。
―僕が悪いことをするわけがないじゃん!
その言葉はある期間に置いては正しいと言えたかもしれない。
白いヒーローチャオで進化を何度もしていった。
少年はそれをマンネリという風に思いはしなかったし、むしろうれしかった。
だが、チャオは小学校6年に転成したら、急に白が、どんどんと黒色になってきた。
そのころ少年はその変化をどうにも思っていなかったが、
中学校に入学して間もない頃。
少年はとある喧嘩だったが、いつの間にか手が出てしまっていた。
殴る=手段と言う式がいつの間にか定着してしまっていた。
それからは殴る喧嘩がどんどん増えていった。
中学生ともなると、ネットワークが急に広がる。
茶髪やいかにも筋肉だけの男とやったこともあった。
どちらかが血しぶきを上げるまで闘争した。
そして、少年は勝ち抜いていった。
タバコも、酒も、男は先取りして体験した。
あれもこれも。何もかもを。男は先に走っていた。
仲間はそんな奴が集まっていた。
警察にも目を特につけられるようになっていた。
―もう止めなさい!
―うっせえんだよ。おまえには関係ないだろーが!
母親も殴った。父親はもうすでにいなかった。
チャオはどんどん黒くなっていった。
目はどこまでもきつく、ぽよは刺々しかった。
それとともに、少年もどんどん裏にのめり込んでいった。
ヤクザという世界に身を染めたのは、友人の誘いだった。
そして、少年は都会に出た。
時間はどんどん少年を黒くしていった。
少年は男となった。しかし―
―あぁ?てめぇさっさと俺の名前くらい覚えろや!
―すいません。
―つうかおめぇおどおどしすぎなんだよ!こんな所に何しに来た?
迷子にでもなったんじゃねぇのか?
―すいません。
そのころ、男の口癖はただただ「すいません」だけだった。
しがらみ無く過ごした少年時代とは少し変わっていた。
上には気を遣わなければならない。
たまには警察に捕まりそうになり、殴られた。
それでもチャオはダークチャオのままでいた。
転生がそろそろ、5回目になりそうな頃―
あのころから3年が経っていた。
男もそろそろ頭角をあらわし始めて、仲間からも慕われた。
そんなとき、男はある女性と出会った。
名前を優といった。
男よりも一回り小さく、一回り弱そうだった。
しかしそれでも彼女は裏の世界に身を投じていた。
―だって他に行くところないし。親どこにいるかもわからねーし。
―だからってこんなところで、こんな仕事続けてんのか?
―そうだよ。なんか悪いのか?
彼女は名前通りの人でなさそうでありそうだった。
彼女はチャオを持っていなかった。
チャオを持たせたらチャオはどんな色になるだろうか。
少しだけ気になった。
だから男はこの若い小さな女性が少しだけ気になった。
半年後。二人は結婚したいと思った。
あのときから二人は互いの傷を舐め合うように、
一緒にいる時間が多くなってきた。
男はこの闇がいやになった。すがすがしい世界で行きたいと思った。
チャオは白い色にかすかになったような気がした。
・・・その白をじゃまする黒は現実のくらいくらい闇だった。
男は当然自分のいる組に足を洗いたいとは言えなかった。
言えば、良くて指を詰められる。
いや、もっとひどい仕打ちかもしれない。
女ができたからだなんて言ったら、たぶん殺される。本気で。
それでも、男はこの世界にはいたくなかった。
だから、仲間の手を借りて、組から逃走した。
優も一緒に連れて行った。
どこか遠いところに二人で行こう。
と。
―ねぇ、私の前から絶対に消えないでね。
寂しいから・・・。
このころ、このような言葉が優からよく聞かれるようになった。
昔の頃の口調とはこのころだいぶ変わっていた。
そして、そう言うたびに少し泣いて寄り添ってきた。
男はその言葉を裏切るつもりはなかった。
しかし、それまでをも昔いた闇は引き裂こうとしていた。
追っ手が来たのだ。
捕まれば殺される。ここにいればいつかきっと―。
男は又逃げることにした。
そして、優はここに置いていくことにした。何も言わずに・・・。
もうこれ以上彼女を危険な目にさらしたくはなかった。
ある日。
男は真夜中になって何も言わずに家を出た。
手紙を置いて。
「さよなら、もう迷惑はかけられない。」
という手紙を置いて。