『過去の殺戮1』
『月光のメイド』
第十二話「過去の殺戮」
季節は春。6月である。
ここはチャオの森。
人に捨てられたりしてくる、チャオの国でもあった。
そのチャオの森は、チャオが作った街、平原、火山など人間にとっても広い森であった。
そのチャオの森の『チャオティックルーイン』という街の北の森の奥に、一つの大きな屋敷があった。
人間が住めるような広さの屋敷で、庭も相当広い。
その屋敷には、屋敷の持ち主であり、お嬢様であるHFF型の『フィル』
チャオでありながらメイド服をきているメイドのNNN型の『メルト』
屋敷の住民ではないが、遊びに来るツッコミをすることが多いHSS型の『ジェイド』
屋敷の庭の管理をしているHNN型の『ピューマ』
屋敷の地下にある図書室で幻闘術というものを研究しているDSS型の『ジェネリクト』
屋敷の住民ではないが、遊びに来る瓢箪を持ち、いつも酔っ払っているNPP型の『ヴァン』
そんなチャオがいる屋敷の話である。
【1】
ジェイド「みつからねぇな……」
俺・・・ジェイドは、屋敷の中の地下一階にある図書室で夏の花に関する本を探していた。
ピューマさんが、夏に備えてどんな花を植えようか模索中らしい。
それで、俺が本を探すことになったのだが……
ジェイド「ふぅ……どんだけ広いんだよここ」
そう。ここの屋敷の図書室はかなり広い。広すぎる。
周りを見渡すと、天井までつづく大きな棚の数々。
その棚にびっしりと丁寧に整理された大量の本。
この中から探すなんて……落としてしまった指輪を、海岸の砂の中から見つけるくらい大変なことだ。
ジェイド「ここかな……?」
見上げると【花】とかかれた背表紙が見えた。
しかし……結構高いところにあるな……
ジェイド「えっと……あった」
こんなこともあろうかと、梯子を持ってきた。
……まぁ、図書室に常備備わっているわけだけれども。
俺は空を飛ぶことができない為、梯子を使わないといけないのである。
梯子をかけて、梯子を駆け上る。
そしてお目当ての本の段まで辿り着くと、その本をひっぱりだした……のだが。
ジェイド「うぉわ!?」
ドサドサ!!
そんな音がしたと共に俺の体と梯子、そしていくつもの本が落ちてきた。
痛い。めっちゃ痛い。
下手すると、このまま繭に包まれて転生するか死んでしまうかと思ったが、大丈夫のようだ。
ジェイド「いってぇ……どうやら大丈夫みたいだな」
チャオは死ぬ直前になったり、寿命がくると繭に包まれてしまう。
ピンク色の繭ならば転生。白色の繭ならば死んでしまう。
それはそのチャオがどれだけ幸せに生きたかで左右される……それがチャオの特性なのである。
転生したチャオは、子供の姿に戻り、能力も大幅に下がってしまう。
ただカオスチャオと呼ばれる種族と、転生防止薬を飲んでいるものは普通のチャオとは異なる。
死ぬぎりぎりまで生き延びることができ、転生もせずに半永久に生きることができる。
つまり不老の存在になることができるのである。
ただ、繭に包まれることが絶対にない。
死ぬ直前になっても繭に包まれることはなく、死を確実に約束されてしまうというデメリットがある。
薬を飲む人は大体が、警察官のチャオや格闘技を習って体を鍛えたチャオが主である。
ジェイド「えっと……本はどれだっけ……」
落ちてきた本の中に、さっき見つけた本を探す。
格闘技の本に、幻闘術の本、環境問題についての本など、見たこともない本が次々に現れる。
ジェイド「ん? これは……?」
俺は、とある一つの本が目にはいった。
本の題名 【究極の忠誠を目指した者達】
著者 【ジェネリクト】
ジェイド「ジェネリクト……さん?」
この屋敷の住人の一人。ジェネリクトさんが執筆した本があった。
赤い本で、そこまで分厚くもない本。
中身を読んでみると、ぎっしりと文字が並んでいた……何が書かれてるのだろうか。
ジェイド「その前にピューマさんに本を持っていっとくか」
俺は、花に関する本を持ち、ピューマさんの元にいくため、図書室から立ち去った。
【2】
ピューマさんに本を渡し、再び俺は図書室に戻ってきた。
さっきのジェネリクトさんが著者の本……一体何が書かれてるのだろうか。
俺は適当にページをめくる。
ジェイド「ふーん……こんなことできるんだ」
俺はとあることに関心を抱いていた。
それは『繁殖転生』と呼ばれるものである。
繁殖転生とは、チャオがもし死んでしまっても、その死んでしまったチャオの繭、または死体のそばで繁殖する。
すると、普通は卵が生まれ、新たなる生命が生まれるのだが……
上手くいくと、死んでしまったチャオが卵の中からまた生まれてくるというものらしい。
復活することができる……
そんな事例は俺は聞いたことはなかった。初めてこの知識を得たのである。
その他にも聞いたこともない知識が、沢山記されていた。
そして俺は——。
ジェイド「ジェネリクトさん!!」
ジェネリクト「うぉわぁ!?」
俺はジェネリクトさんに駆け寄り、名を叫んだ。
椅子に座って本を読みながらぼーっとしていたジェネリクトさんは、いきなり呼ばれたことに驚いてしまったのだろう。椅子から転がり落ちてしまった。
ジェネリクト「いたたたた……」
ジェイド「あ、すいません。大丈夫ですか?」
ジェネリクト「あぁ、いきなり叫ばれてビックリしたよ」
ジェネリクトさんは、立ち上がるとまた椅子に座った。
そして本をまた読み始める。
ジェネリクト「で、どうしたんだい? 急に」
ジェイド「……これ」
んー? っといいながら、ジェネリクトさんは笑顔で振り返った。
——だが、その笑顔は急に失われる。
ジェイド「ジェネリクトさん……これ本当ですか?」
ジェネリクト「あはは……まだ残っていたのか……」
ジェイド「ジェネリクトさん」
ジェネリクト「…………」
この本の中に書いてあったこと……。
それは、忠誠なる者達という欄である。
——忠誠なる者達の中に、メルトの名がかかれていたのであった。
その忠誠なる者の内容は……主人に仕えるための訓練の様子が記されていた。
ジェネリクト「実は……その時に僕とメルトは出会ったんだよ」
ジェイド「え?」
ジェネリクト「もうこれじゃあ、隠せないねぇ……」
そうジェネリクトさんは言葉にすると、ジェネリクトさんとメルトさんの過去のことを語り始めた——
【2】
——忠誠なる者
それはチャオでのとある部隊。
いわゆる、執事とメイドのような存在である。
しかし、それ以上に戦闘民族でもある。
誰かのために戦い、誰かのために従い、誰かのために死ぬ。
立派なチャオになるため……誰よりも強いチャオになるため。
とある指導により特殊訓練をされる。
その訓練とは——
「ごらぁ!!さっさと動けぇ!!」
「は、はい!!」
僕……ジェネリクトは、とある施設内にいた。
僕は施設の二階からガラス窓越しに一階の様子を見下ろしていた。
興味だろうか。それだけで、忠誠なる者達の指導をみたくなったのである。
……といっても、ここなら沢山の幻闘術の知識を得られそうな気がしたから来たわけであるが。
施設内は普通入れないのであるが、僕は幻闘術に関して有名人だった為、特別に入れてもらえることになった。
幻闘術とは火、氷、雷、風、光、闇の6つの自然現象を利用した戦闘術。取得するには数々の訓練が必要である。
そして、そこで僕が見た光景は——
ジェネリクト「これは……」
光景は——まるで地獄のようだった。
猛スピードで掃除、洗濯、料理などなど。
少しでも手を抜けば、すぐに指導員に叩かれる、蹴られる。
そして、忠誠なる者たるもの、忠誠を誓ったものに対して、忠実でなければならない。
命令は絶対。
どんなに難題でも、こなすようにしなければならない。
その内容は——草むらの中に投げた指輪を捜索、主人に飛んでくる無数のボールを排除、崖下に生えている花を採取するなど。
無理に近いものが次々に命令されていた。
このぐらいしないと、忠誠など誓えないということか……
しかし、ここは圧倒的に足りないものが存在した。
それは——『心』
ここのチャオ達は、心を失っていた。
つらい訓練を受け続けた結果、深く考えることをやめ、忠誠に従おうと精一杯であったのである。
指導員「いかがですか?」
ジェネリクト「ぁえ? あ、はい……」
指導員がいつの間にやら僕の隣に立っていた。
さすが指導する側も只者じゃない。いつ隣にいたのだろうか……
指導員「ここで沢山の忠誠を誓うチャオが生まれ、世の中の役に立っていくのです
」
ジェネリクト「予想以上ですよ……幻闘術も上級レベルですね」
指導員「はっはっは!ジェネリクト様ほどではありませんよ!」
ジェネリクト「ありがたいお言葉、ありがとうございます」
指導員「いえいえ、こちらこそ」
僕は無理やり笑顔を作って答えた。
喜べる心境ではなかったからである。
指導員「中でもあのチャオが凄くてねぇ」
指導員がそう語りながら、とある方向に指さした。
指さす方に目をやると、一階の端っこにたった一人。トランプを持ったチャオがそこに存在していた。
トランプを見て、何か思い込んでいる感じだった。
ジェネリクト「トランプ……?」
指導員「まぁ、見ててくださいよ」
トランプを持っているチャオの10m先に、木で出来た的が立っていた。
そしてトランプを持ったチャオが、手を天に挙げた——その刹那。
ジェネリクト「な……!?」
室内にも関わらず辺りが急に暗くなる……夜になったのである。
そして、いつ現れたのだろうか。
トランプを持ったチャオの上空に、綺麗に輝く月が出現した。
そしてそのチャオは、トランプ一枚を鋭く投げた。
綺麗に投げられたトランプは、的の中央に……刺さった。
さらに投げる。また投げる。
投げて投げて投げて投げて投げて投げて投げて投げて投げて——
そして、最後に力を込めて投げたトランプは、まるでナイフのように鋭く光った。
光ったように見えたといえばいいだろうか。
そのまま——的を真っ二つにした。
やがて辺りは明るくなり、いつの間にやら月も消滅していた。
指導員「——彼女の名は『メルト』。記憶消失のチャオなんですよ」
ジェネリクト「記憶消失?」
チャオで記憶消失は初耳だった。
チャオにもそういうことも存在するのか……
指導員「とある日……どこから来たのでしょうかねぇ? いきなりここの施設に来て、『ここに泊まらしてください』なんて言ってきたんですよ。なんなんでしょうかねぇ……どこから来たかも分からず、分かるのは自分の名だけなんて」
ジェネリクト「そうだったのですか……」
指導員「ここの施設のシステムのことを教えたら、『私もここで訓練させてください』って言ってきたんですよ。なんともいえませんよ本当に……。しかし、もう彼女は完璧だった。もう訓練する意味もなかったのですよ。どんな訓練でもすぐにこなしてしまうんです」
ジェネリクト「確かに、あれだけの実力があればもう訓練も必要なさそうですね」
指導員「唯……少し問題が」
問題?
あの完璧なチャオにも問題があるのだろうか……?
そう思っている間にも、指導員は語り続ける。
指導員「それは……仲間がいないのですよ」
ジェネリクト「仲間?」
指導員「えぇ」
指導員はそう頷きながら、話を続ける。
指導員「完璧すぎるからでしょうか、他のチャオ達が嫉妬してしまっているんです。そして、あの子自体も他のチャオと接しようとしないのですよ」
ジェネリクト「ふむふむ」
指導員「つまり……主人の事を深く考えようとしなく、そのことに対して主人に不快感を与えてしまわないか。そういう危険性があるのです」
ジェネリクト「なるほど……」
指導員「そしてもう一つ」
指導員はこちらの方向を真剣な眼差しで見つめてきた。
そして口を開く。
指導員「チャオを……見境なくすぐ殺そうとします」
ジェネリクト「殺す!?」
指導員「えぇ。自分に危害を与えようとしたもの、主人でも多分即座に殺そうとします」
ジェネリクト「そのチャオが転生した後は?」
指導員「転生がなくなるまで、殺し続けます」
なんという殺戮だ……
指導員によると、メルトは自分に対して喧嘩を売ってきたチャオは、全て殺してきたらしい。
さらに、故意にメルトに対して攻撃してしまったチャオなども、殺されてしまったらしい。
——それでは仲間もできそうではないな。
指導員「誰か、彼女を止めてあげられればいいんですがねぇ……」
……………………
自分の中で、探究心の心が芽生えた。
うん……しばらく暇だったし、面白そうだ。
ジェネリクト「すみません。私にメルトさんを任せてくれませんか?」
指導員「えぇぇ!?」
ジェネリクト「大丈夫です……必ずいいチャオに育てて見せます」
これが……僕とメルトの出会いだった。