『過去の殺戮2』

                【3】


メルト「……なんの御用でしょうか?」


 僕はメルトに話しかけると、そう言葉が返ってきた。
 いきなり困る言いかたされたなぁ……


ジェネリクト「君に興味がある……と言えばいいのだろうか」
メルト「興味ですか?」
ジェネリクト「そう。僕の名はジェネリクト。よろしく」
メルト「はぁ……」


 やはり、反応は薄かった。
 息苦しい感覚がこみ上げてくる。
 が、こんなところでまだ終われない。


ジェネリクト「ところで……」


 僕が質問しかけたその瞬間。
 いきなり、メルトの足元に向かって沢山の皿が割れた。

 何事かと思い、皿の飛んできたほうを見ると、見事につまづいて転んでしまった小柄なチャオがいた。
 どうやら、皿を急いで運こぶ訓練中だったのだろうか。
 慌てて転んでしまったようだ。ポヨがぐるぐる巻きになっている。


小柄なチャオ「す、すみません!」


 小柄のチャオは頭を思い切り下げ、謝ってきた。
 危害はなかったようだが……

 メルトには、やはり通じなかったみたいだ。
 メルトは、足元の皿の破片を踏みつけながら、小柄のチャオに迫る。
 足から血が出ているが、気にもしていなかった。


メルト「あなたは、私に危害を与えようとしました」
小柄のチャオ「い、いえ! 決してそんなことは……」
メルト「あなたを処分します」


 そういうとトランプを取り出し、それを握り締めたまま上空から振り下ろした。
 さっきの切れ味からすると、このままこのチャオは真っ二つに……


 ゴォォォオオオ!!


 やはり、そんなことは僕は許せはしなかった。
 幻闘術の炎を使い、メルトの持っているトランプを燃やした。

 メルトは、少しの間呆然とし……僕を睨んできた。


メルト「……邪魔する気ですか?」
ジェネリクト「君は間違っている」
メルト「……あなたも敵のようですね」
ジェネリクト「違う」


 僕の言いたかったことを、簡単に理解しないことに無性に腹が立った。
 僕はメルトの目の前に立ち、意見を述べる。


ジェネリクト「僕は君の友人になりたい」
メルト「危害を与えようとしたのにですか?」
ジェネリクト「違う。君の間違いを指摘したかっただけだよ」
メルト「……間違い?」
ジェネリクト「そう。さっきの彼女は転んで皿を割ってしまっただけだ。それなのに、何故君に危害を与えようとするのかな?」
メルト「しかし、現に私は……」


 やはり簡単には分かってくれそうにない。
 僕は息を大きく吸って——


ジェネリクト「メルトォ!!!!」


 彼女の名を叫んだ。

 彼女はいきなり叫ばれると思ってもいなかったのだろう。
 目を丸くして、黙ってしまった。
 辺りも静かになった……


ジェネリクト「君はまだ幼稚すぎる」
メルト「わ……私は」
ジェネリクト「君はまだ無知すぎる」
メルト「私はもう何でもできます!」
ジェネリクト「いや、君はまだ……できていないことがある」
メルト「……なんでしょう?」


 彼女ができていないこと。
 それは————


ジェネリクト「誰かを信じること。誰かを愛することができていない」
メルト「そんなことができなくても……」
ジェネリクト「いいや。これは重大なことなんだよ、メルト」
メルト「…………」


 ついにメルトは黙り込んでしまった。
 ふぅ……っと僕はため息をつくと、メルトに手を差し出した。


ジェネリクト「僕がいろいろ教えてあげるよ。それならいいだろう?」
メルト「……いいのですか?」
ジェネリクト「当たり前だよ。僕は君に興味が出た。協力するなら当然のことだよ」
メルト「ジェネリクト様……」
ジェネリクト「様付けなんてしなくていい。呼び捨てでいいよ。これから僕と君は——」


ジェネリクト「友人さ」


 僕と彼女の関係はここから始まった。


                【4】


 僕はいろいろ彼女に指導した。
 まるで、メルト専用の指導員になった気分だ。

 まず、彼女は自分に危害を与えられたと思ったら、とことん相手を処分しようとした。
 その癖は半端なかった。
 何度指導しても、何度でもすぐに処分しようとする。


メルト「すみませんジェネリクト。分かってはいるのですが……」
ジェネリクト「ふむ……どうしても、君は徹底的に殺そうとするんだねぇ」


 彼女は容赦はしなかった。
 せめて、相手をやっつけるまでになればいいのだが……どうしても殺そうとしてしまう。
 過去に何かあったのだろうか……? しかし、記憶喪失だからなぁ……。

 だが僕は記憶喪失なのを知っていたのにも関わらず、過去のことを問いただしてみようとした。
 すると……


メルト「すみません……昔はよく思い出せなくて」
ジェネリクト「あぁ、そうなのかい」


 やはり分からなかったみたいだった。
 しかし、彼女はまだ語り続ける。


メルト「私が覚えてるのは、深い森の中……何故か泣いていました」
ジェネリクト「ぇ?」


 泣いていた……?


メルト「私もよく分かりません。何故本気で戦闘する時に限って、夜になり、月が出現するのかも……覚えているのは、私自身の名前のみでした」
ジェネリクト「……分かった。どうやら僕も君のことを知らないといけないみたいだ」
メルト「はぁ……」
ジェネリクト「そうだな……なら、何か行動を起こす時は、主人に従うことにするってのはどうだい?」
メルト「従う……ですか?」
ジェネリクト「そうだ。僕が今から仮の主人になるよ」


 それが得策かと思った。
 ここの施設の訓練を見ると、それもいいのではないかと。
 しかし、メルトは鋭い目つきで僕を睨んできた。


メルト「まさか、私をそうやって物のように扱うのではありませんよね?」
ジェネリクト「あのねぇ……大丈夫。君を正しい道に記してあげるよ」
メルト「……分かりました。とりあえず、歩いてもよろしいでしょうか?」
ジェネリクト「そこまで細かい質問はしなくていいよ……」


 メルトはどこか抜けていた。
 だからこそ教えがいがあったのであった。
 幻闘術の勉強をしにここにきたつもりが……メルトの指導へと目的が変わってしまった。
 でも、僕はそれでもよかった。
 彼女を指導していくのは楽しかったからである。


 そして……沢山の日が流れ……


メルト「と、いうわけで。私の仕事場がついに見つかりました」
ジェネリクト「そうかい」


 ついにメルトに仕事場……雇うものがでてしまったらしい。
 とある、一人のお嬢様を世話して欲しいらしい。
 名前は『フィル』。 かなりわがままな性格のお嬢様らしい。


ジェネリクト「一人で大丈夫かい?」
メルト「分かりません……随分あなたの世話になってしまったので」
ジェネリクト「いつでも僕を呼んでくれてもいいからね。君と僕の約束だ」


 そういって、僕はメルトに握手を要求するように、手を差し出した。
 メルトは少し困っていたが……握手を交わしてくれた。


ジェネリクト「元気で。向こうでも主人の言うことを聞くんだよ?」
メルト「ジェネリクトも元気で。私のたった一人の友人……ありがとう」


 そういい残すと、彼女は旅立ってしまった。
 なんだか急に寂しくなった……仕方ないことだろう。

 指導員に、メルトのことに関して礼を言われ、僕も自宅へと足を運んだ。
 メルトはきっと元気でいきていけるだろう……


                【5】


ジェネリクト「ところが、彼女からはすぐに連絡がきてねぇ。屋敷の人がたった二人だけで、そこに僕も住んで欲しいと言われたんだよ」
ジェイド「そうなのですか……」


 俺はジェネリクトさんの話を、真剣に聞いていた。
 二人にそんな過去があったなんてなぁ……


ジェネリクト「彼女は随分変わってしまったよ。もちろんいい意味でね」
ジェイド「そうですね……俺には昔のメルトさんがそんな人だったなんて思いもしませんでした」
ジェネリクト「ははは、そうだろうねぇ」


 ジェネリクトさんは、一度大きく背伸びをした。
 気持ちよさそうに伸びて、息をどっと吐いて肩をおとす。
 そして俺の方を見て、口を開く。


ジェネリクト「メルトは僕の友人さ……これからも、いつまでもね。君もメルトを大事にしてくれ」
ジェイド「当たり前です。大事にしますよ」


 ふふふ、とジェネリクトは笑い、本を読み始めた。
 昔のことを思い出すかのように、その目は遠くを見ていた……


メルト「ジェネリクトのことをどう思っているかですか?」


 フィルの質問に、メルトはそう言い返していた。


フィル「そうよ。あなた達仲がいいから聞いてみたかっただけよ」
メルト「……ジェネリクトは」


 メルトはそう黙り込むと、少しの間考え込む。


 ジェネリクトは……私の——


メルト「ジェネリクトは——私の友人です」


 はっきりした声でそう答えた。


 そう……メルトとジェネリクトは……


 かけがえの無い、友人なのであった。


第十二話「過去の殺戮」              終わり

このページについて
掲載日
2009年3月30日
ページ番号
39 / 41
この作品について
タイトル
月光のメイド
作者
斬守(スーさん,斬首,キョーバ)
初回掲載
週刊チャオ第331号
最終掲載
2009年9月16日
連載期間
約1年1ヵ月20日