3 まだ生まれてもいないのに
見覚えのある飛空艇が島の近くの海に浮かんでいた。
チャオたちが手を振っている。
俺とアサは塔の上から、島に寄ってくる飛空艇を見ていた。
飛空艇は不定期的にこの島を訪れる。
「種、あるといいな」
と俺は言った。
食べられる実の成る木の種を俺たちはいつも欲していた。
寿命の短い代わりに、短期間で育って多くの実を作る木の種を時々飛空艇は運んできた。
不死身の俺たちは食事の必要すらないので木の実はおやつとなるのだが、この島に生えている木から取れる量では全員分には足らないのである。
着艦すると飛空艇から何人かの男が出てきてコンテナを下ろすと、飛空艇はすぐ出発してしまった。
島から離れると、空を飛び去っていく。
チャオたちは塔の上に俺たちの姿を認めると、早く来いと言っているのだろう、俺たちを見て手を振りつつ騒ぎ始める。
「みんな元気いいなあ」
苦笑して、アサは傾斜を下る。
そうだな、と言って今日は俺が飛び降りた。
アサは走って降りてきた。
「ちょっと、先に行っちゃわないでよ」
「すまない。中身が気になって」
俺は舌を出した。
コンテナはチャオでも開けられる大きさの物だ。
それなのにチャオたちはいつも俺たちにコンテナを開けさせる。
「種あったぞ」
スコップとじょうろも入っていた。
それらは既に持っているのでいらないのだが、壊れたり紛失したりということを考慮しているのだろう。
さらにコンテナを開けていく。
りんごが詰められていたり、無地のノートやクレヨンなどの小さい子ども用の遊具があったりした。
ブロッコリーばかりが詰められたコンテナもある。
なんでブロッコリーなんだ?
しかも俺はブロッコリーが嫌いだった。嫌な気分になる。
そして最後の一つを開けると、そこにはチャオの卵が入っていて、俺は目をむいた。
「卵だ」
卵を抱き上げた俺は、これは一体なんだろう、という感じでアサに見せた。
「きっと誰かに捨てられたのね」
「まだ生まれてもいないのに?」
「繁殖しちゃったか、それか転生したのかも」
でも飼い主にはもうチャオを飼う気がなく、それでここに運ばれた。
飛空艇の人たち、彼らはチャオたちの元の飼い主たちから金を受け取り、僅かな物を持ってきていた。
そして時折このように捨てるチャオも運んでくるのだった。
ただ捨てるだけじゃなくて食べ物や遊び道具を持ってきてくれるのは、ありがたいはありがたい。
だけどこんなちっぽけな親切だと、逆に満足できない気持ちがわき上がってしまうものだ。
彼らが来ると、少なからず俺は動揺してしまう。
「貸して」
とアサが両手を伸ばした。
その腕にチャオの卵を抱かせてやる。
「へへへ」
なにか企んだ様子でアサは座り込む。
すると卵を草の色にくすんだワンピースの中に隠して、
「見て、妊婦さん」
と言った。
「ああ、俺たちの子どもだ」
アサはゆっくり立ち上がり、体を軽く上下させて服の中の卵を揺らした。
その様子を見たチャオたちはアサを羨ましそうに見ていた。
「こいつらもやりたいってさ」
「うん、待っててね」
卵を下ろすと、チャオたちは抱き付いた。
チャオたちの体長は卵とそう変わらない。
体を卵とすり合わせるようにしかならない。
それでもチャオたちは交代しながら二時間近く卵に抱き付いていた。
その後で俺も妊婦の真似をした。
卵はほんのりと温かく、俺の方が温められるような感じが始めにして、やがて同じ温度になる。
「どう?」
とアサは微笑んだ。
「生きてる。生きているよ」
俺は命を分け与えるように腕や腹を密着させて卵を抱き締めていた。