<31> それから
渋滞を抜け、駐車場の空きを見つけ、
車は、ゴムとアスファルトの擦れ合う音と共に停車した。
同時に、チャオたちが一斉に飛び出す。
そういえばここには白線なんか引いてなかったような気がするが、
案の定、正規の駐車スペースじゃないらしい。
「Gale、Galeっ! あそこあそこぉっ!」
隣の席に座っていたチャオが、駐車場の柵の外を指差した。
他のチャオもその方へ駆け寄っていく。
「姉御だよぉっ、姉御!」
Final dash <31> それから
姉御といえど、チャオである。 体格は他のチャオと変わらない。
むらがるチャオたちに隠れて、俺には姉ごとやらの姿が良く見えず、この時ばかりは体格差があってもいいんじゃないかと思った。
さっきのチャオもLiltaもその中なので、どうやら俺だけ蚊帳の外になってしまったようだ。
守越とMealは─居ないな。 大人しく出走チャオの手続きに行ってくれていれば良いのだが、絶対何かやらかすだろう。
ところが、蚊帳の外にいたのは俺だけではなかった。
あのじじい、チャクロンもその様子を眺めているだけだ。
流石にきゃあきゃあ騒いで喜ぶのはその年では気持ち悪いと分かっているのだろう。
その様子、と言うかLiltaの様子を見ているのでも気持ち悪いと分かって欲しいところである。
「あー、あの子? 新入りちゃん? ソニチャの子?」
聞き覚えの無い声に振り返る。
声の主がギャラリーをかき分けると、ヒーローオヨギタイプのチャオが現れた。
オヨギタイプ─ランナーにはあまり見られないタイプだ。
「えーと・・・どうも」
「Gale君ね、初めまして。 今日A-Preに出るんでしょ? 頑張りな」
ぽん、と俺の頭に手を乗せていくと、姉御は引率するように集団の先頭に立った。
「さー、所長もコーチも何やるか分かんないから早めに行くよ!」
良く見ると、さっきのチャオが彼女の後ろにぴったりくっついている。 そんなに懐いているのか・・・
談笑しながら会場の入り口へと一団が動き始めると、車に乗っている間はずっと後部座席で舟をこいでいたLiltaがぱたぱたとこっちへ戻ってきた。
「おはようございます、Galeさん・・・」
Liltaは言いながら大きく欠伸して、恥ずかしそうに口に手を当てた。
「あのなあ、別に昨日の夜俺とあいつに付き合って無くても良かったんだぜ?」
「良い勝負でしたから、つい・・・Galeさん、本当に学校にいた頃はTrackさんに勝てなかったんですか?」
「当然だろ、あいつはその頃からもう公式のレースに出てたんだから」
結局、昨日の勝負は─抜いたり抜かれたりしながら、三周しないうちに瓦礫の城のチャオに叱られて終わってしまった。
怖そうなおばちゃんっぽいチャオがうるさいから止めろと、フライパンで頭を2、3発・・・その後どうしたっけ?
ともかくあいつも、相当速くなっていた。 大事なスタミナも多くなっていたと思う。
あんまり、のんびりしていられない─
そういえば、この大会には俺の知ってる奴も誰か来ているのだろうか?
「・・・はー・・・」
「ねっ、広いでしょう?」
人、チャオ、それ以外─いや、変な意味じゃなくてペットとか。
報道陣のカメラのレンズが、太陽光を鋭く反射する。
彼らの観客席が取り囲むのは、見たことも無いような広大なコース。
スタジアムは、予想以上に大きかった。
「これじゃあスタジアムっていうか、レース場と観客席だな。 円形だったらいいってもんじゃ無えだろ」
「他にも同規模のコースがあと2本ありますから、こんな建物が3つ、連絡通路でつながっているんです。 この第一会場で開会・閉会式と初日のレースがありますね」
ふーん、金があるんだな・・・
チャオレースの施設となると、何でも規模が大きい。
人気があるのもその理由のひとつなのだろうが、最初にダービー形式にしようと考えた奴は本当に天才だと思う。
「ビビんなよー、俺たち全員で観てるから」
オニチャオが応援なんだかプレッシャーをかけに来ただけなんだか、どこからともなくやってきた。
今日の開幕戦で走るチャオのうちの一匹だ。
「そういえば、姉御以外には今日は誰が走るんですか?」
「えーと、A-Stanは俺がお前の次のレースに出て、ひとつ上のランクは姉御だし、俺の下はRivelt、と・・・これだけだな」
「えっ、Rivelt?」
「ん、去年新人戦でデビューして、今年はA-Stanの下から二番目か三番目のランクへの出場権を狙ってるな」
バスの中での奴の様子はどうも変だと思ったが、それで緊張していたせいなのか。
Riveltが走ることにも驚いたが、A-Stanの中にもランクとかって、あったんだな・・・
となると、A-Preをこの大会で通過しても、俺は今シーズン中一番下のランクで走るということになる。
TrackはRiveltと同じかそれ以上のランクを狙うだろうし・・・何か悔しい。
まだ開会式には時間があるというのに、観客席は満員御礼。
ざわざわと騒がしく、どこかで見たことがあるような名前の書かれた横断幕もちらほら。
Trackがこの大会に出ていたとしたら、あんな感じのサポーターがつくのだろう。
俺もいつかあんなのが─いや、とりあえずスポンサーを掴まないと。
そしてAlfeetを探し出して、それからだ。