<27> A-Pre
Final dash <27> A-Pre
「で、どうだったんだい、Rivelt?」
冷え切った大理石の玄関ホールで、彼は人間と向き合っていた。
人間のほうは、15歳くらいの少年。 そこそこ長身で、Riveltを見下ろすように立っている。
「勝ったよ。 負けるわけない」
「圧勝、だったのか?」
Riveltは、その問いには即座に答えられなかった。
「違うんだろ」
口をつぐんだまま、床を見つめている。
「追い詰められたりし無かっただろうな?」
黙ったままのRiveltに、少年はさらに問い詰めた。
少しの沈黙があって、Riveltはやっと口を開く。
「一度・・・抜かれたよ」
それを聞くなり、少年はRiveltに詰め寄ってしゃがみこんだ。
「あのなぁ、それじゃあ俺はお前に期待出来ないんだよ」
彼の人差し指でぐいぐいとRiveltは額を押され、
後ろにこけないようにぐっと足を踏ん張っていた。
ぎゅっと口を固く結んで、目は上目遣いに少年をみつめている。
「分かってんだろ? 期待して欲しけりゃ完璧に勝てよ。 ただ勝っただけで良いと思うなよ」
つんっ、と人差し指を突き放すと、その反動でRiveltは冷たい床にしりもちをついた。
少年は立ち上がると、またRiveltを見下ろす。
「甘いんだよ、お前」
彼はそう言うと、奥の廊下へと立ち去っていった。
「・・・Lilta、多分Alfeetって奴を探しにいけるのはまだまだ先になるぞ・・・」
「? 何かあったんですか?」
俺はきっと、かなり幸運な星の下に生まれたチャオなのだろう。
レース学校を退学になったと思ったらただ飯ただ泊で生活を始め、
ちゃっかりレース事務所に拾ってもらう。 幸運だ。
そして、俺は全財産の入ったがま口の財布を逆さまにした。
チャリン、と、空しい音が2,3回響く。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・ごめん、悪ィ」
床に、数枚の銅貨が散ばったのみだった。
「はーっ、よくそれで生きてたっすね~」
「Galeくんすごぉいっ♪」
「何をどうやってそうしたのよ、奇跡ね」
尊敬の目か、哀れみの目か。
俺も今朝その事態に気がついたばかりだったのだ。
「いい加減稼がないとやばいっつーか・・・なぁ、Lilta」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・Lilta?」
「ショック大きかったんっすね~」
Liltaはさっきから、ずっと黙りこくったままどろどろしたオーラを発しているのである。
"瓦礫の城"のシステムのお陰か、生命の危機を感じるとまではいかないが、
何よりLiltaに申し訳なかった。
ここでまとまった収入が無いと、いつまでたっても話が進まないのは勿論、Liltaの俺に対する目つきが変わってくる気がしてならない。
「稼ぐ、ねぇ・・・次の大会まで1週間ぐらいしかないけど、賭けてみる?」
「大会?」
リーダー格のチャオがどこからともなくチラシを取り出して、俺に渡した。
手にとって見てみる。 新聞サイズの大きさがさり気に邪魔だ。
「─! 賞金が出るのか!?」
「先にそっちっすか~・・・・そんなことも知らずによくこの世界で走ってきたっすね」
当たり前なのか?
走ることしか考えていなかったせいだろうか、そういえば俺はそういう知識が無かった。
「チャオレースは安いけれど入場料と、あと競馬と同じような賭け金からの収入が出走者に賞金として割り当てられるんだ。 当然、順位は高いほうがいい」
「所長と俺がここで教えてるのも自分とこのチャオに賭けて賞金頂くためっすからね~。 1割経費であとは飲み代っすけど」
そういうこと、堂々と言っちゃうんだな。
ともかく、これでLiltaのオーラも晴れただろうと後ろを振り返った。
「聞いたか、Lilta?」
ところがLiltaは無言でこっちへ歩いてくる。
何か悪いことを言ったかと一瞬たじろいだが、次にはもっと嫌な予感に襲われるのである。
「・・・・大会・・・その手がありましたね・・・Meal"コーチ長"」
「はい~?」
・・・・おい。
「びっっっっっっちり、Galeさんをしごいてやって下さい・・・・!!」