<26> コピー

勝てる。 いける、いけるさ。
やっぱり、間違いだよ。 あいつが僕より、速いわけが無いじゃないか。

もうこの距離にもなれば、絶対に追いつかれない。
あとは、きついコーナーでカットをしつつ、加速していけば良い。
僕のスタミナは並じゃない。 新入りなんかとは違うんだ。

熟練の腕、見せてやる。



Final dash <26> コピー



もうそろそろ、いや、もう既にかなりやばい。
Riveltは遠近法を使ったらかなり小さく描かなければいけないくらいに、ずっと前を行っている。
一周目は走りきったが、ここでlunatic runでもすれば、後でどうなるか目に見えている。
壁もなければきつめのコーナーも少なく、風斬にも適しない。

やっぱり今度は、流石に─

─「今までは、どうやって勝ってきたんですか?」

あぁ、この前Liltaに聞かれたっけな。
あの時ははぐらかしたけど、俺、本当にどうやって勝ってきたんだ?
・・・学校のコーチは確か、

─「お前の最大の武器は、その吸収力だ」

そんなような事を言っていた。
じゃあ、それを利用して、勝っていたのかもしれない。

─こいつにも、今まで通りで通用するだろうか?



「・・・何やってんだ?」

チカラタイプのチャオは、Galeの方を見て怪訝そうに呟いた。

「あれって─雑誌でよく騒がれてるlunatic run、だよな?」
「そう、ですね・・・」
「いいのか? あんなに飛ばして。 噂ではとんでもなくスタミナ消費が激しいんだろ?」

確かにRiveltとの差はぐんぐん縮まっているが、なかなか長距離のコースだ。
あと半周となると、スタミナをもっと大切にしなければゴールまで行き着かない。

「でも、ちょっと違う・・・動きが変な感じ。 なんかジグザグに走ってません?」

Liltaの言うとおり、Galeはコース幅一杯を使って地を蹴っている。
しかも連続で数回、たまに止めてもダッシュ体制、まさに捨て身で距離を詰めていた。

「何か動きがあったほうが面白いが、あれで勝てるつもりか?」
「勝てるつもりなんじゃないですか?」

しかし、Riveltは相変わらず余裕の走りを見せ、焦っている様子は無い。
スタミナ切れになるであろうことを予測しているのか、ただダッシュを続けるのみだった。
Riveltもしっかり逃げているとはいえ、もうGaleは彼の2メートル後方へついている。
二匹の行く手には、また最後のコーナーが迫っていた。



─ふざけるな。 そんなので勝てると思ったら、大間違いだ。
次のコーナーで、更に差は開く。 そしてまたその差を縮めるだけのスタミナを、あいつは持ち合わせていないはずだ。
そんなに飛ばして、なんになる─

コーナーに差し掛かると、アウト側に体を持っていく。
カーブの内側の線とその向こう側が一直線に並ぶ位置で、足を蹴りはなった。

視界が、一気に後ろへと流れていく。
そのとき、側を青い何かが抜き去っていった。
唯一、僕より前へと行くのは、それだけ─



ゴールの周りでがやがやと談じていたチャオたちは、一斉にその口を止めた。

「・・・抜い・・・ちゃった・・・・」

唖然として、あるチャオが呟く。
Galeは、僅かながらもコーナーでRiveltを抜いたのである。

「カットをそっくりそのまま真似しやがった・・・Riveltだって、習得に何ヶ月かかったか・・・」
「あ、でも」

Galeががくっとペースを落としたのが、手に取るように分かった。
Riveltはそれを軽く抜いていき、最後の直線コースを走っていく。

「ゴール目前なのに、スタミナ切れですね」

目の前をRiveltが通過し、ゴールラインを超えると足を止めた。
Galeもそれに続いて、十数秒遅れで倒れこむようにゴールを切る。
写真判定は、明らかに不要だった。





「あ"−、疲れたっ。 やっぱ無理だったかぁ」

事務所の一室で、Galeは机に寄りかかりながらいった。
渡良瀬は先ほど撮った映像を巻き戻しし、もう一度見ようとしている。

「お疲れ様です。 にしても、何をどうやって抜いたんですか?」

Liltaが隣でだらだらと眠そうな目をしているGaleに尋ねた。

「え? あー、あれ? 別にいつもどおりlunatic runだけど」
「でも、あんなに連発したら一瞬でスタミナ切れじゃないですか」
「それはあいつのカットにしても一緒だろ」

渡良瀬も振り返って、

「「え?」」

同時に聞いた。

「あいつのカットは風斬そっくりだ。 でもRiveltは急な角度でカットするから、スタミナへの反動が少ない。 だから俺も少し角度つ

けて走ったわけ」
「・・・じゃあlunatic runって、風斬よりスタミナ消費が少ないんですか?」
「まーな。 直線だと足に負担がかかるし、難しいし」

Liltaは渡良瀬と顔を見合わせて、よくわからない、という表情を作って見せた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第213号
ページ番号
36 / 47
この作品について
タイトル
Final dash
作者
ぺっく・ぴーす
初回掲載
週刊チャオ第162号
最終掲載
週刊チャオ第270号
連載期間
約2年27日