<25> 逆転
Final dash <25> 逆転
まだRiveltは俺の後方に着き、ペースを変えずに居る。
少しダッシュの体制に入った俺との間は、それなりに広がっていた。
これくらい離していれば、そう簡単に追いつけないだろう。
そう、簡単に追いつけない筈なのに、相手は妙に余裕をかましている。
追いつく自信があるのか、様子見か。 そうだとしても、必要以上離れている。
─あまり、良い予感はしない。
次のコーナーはきつめだが、ここでもそうたいして差は縮まらないだろう。
「良く見てろ、次のコーナーのところ」
チカラタイプのチャオが、一次進化したてのチャオの肩を抑えていった。
目で走っている二匹の様子を追う。
「どうなるんですか?」
「あいつがここまでやってこれた理由が分かる。 あれは実際走ってると怖いな」
そう言うとちょっと苦笑いし、もう一匹のチャオはそれをみてまだ不思議そうな顔をしていた。
「・・・様子見の・・・つもりでしょうか?」
Liltaが呟く。
不安げに二匹の様子を見つめ、その目を離さない。
「それか、油断させてるつもりか─まったく、子供だな」
「子供?」
「そ。 白い方がな。」
Liltaも、その意味をいまいち飲み込めていないようだった。
殆どヘアピン状のカーブが差し迫っている。
だが、ダッシュを続けるのも、これを風斬で抜ける必要も無さそうだ。
差は3メートル、縮まらなければ離れもしない。
普通のレースで3メートルも離れていれば、こっちは安全だしあっちは致命的だ。
カーブを普通に走って抜ける。
大したスピードでも無いので、イン側について折れ曲がるように行けば、
万が一、ということも無いだろう─
「お先に」
白い塊が、ぶつかってきた、と思った。
が、結局スレスレで前へ飛んでいき、コーナーを抜けていく。
それは一瞬で、俺を軽々と抜いていった。
「さっきの・・・Riveltか?」
冗談だろ。
コーナー部分のイン側、ギリギリのところを通ったはずだ。
奴は、それより内側を抜けていった。
それより内側─コースを出てしまう。
Riveltはそのままダッシュで直線のコースを行き、
3メートル差─俺を後において、走っていった。
流石に焦りを感じて、こっちも本気で追いかけていく。
「・・・・・・・な、何事だったんですか、さっきの!」
「アレ良いだろ、見てて面白いし」
すっかりあっけに取られた様子で、若い方のチャオは尋ねた。
あのコーナーでのRiveltは、ここからは地面に足をつけず、一気にアウト・イン・アウトを成し遂げたようにしか見えな
い。
さっきまでの差が、逆転している。
「─飛びましたよね? さっきの」
「飛んだから、コースの外に足をつけずにGaleさんより内側を通れたんです」
本気で走り始めたRiveltは、Galeとの差を広げていく。
Galeもあわてて追いかけるが、それでも追いつけないだろう。
「・・・・・・カットって、知ってるか?」
チカラタイプのチャオが、若いチャオに尋ねる。
「えっと・・・コーナーを直角に二回まがって、直線で囲うように抜けるんですよね?」
「そう、あれもただのカットなんだけどな」
若いチャオは走る二匹に目を戻して、
「まさか、あれが?」
聞き返した。
またRiveltはきついコーナーに差し掛かると、カットでそれを抜けていく。
今度はかなりギリギリで、コースの内側にとどまったラインだ。
「Riveltのカットは、飛んで、かなりのスピードでコーナーを切って行く。 しかも基本的な走りも結構な速さがあるか
らなぁ」
「鬼に金棒、ですか」
「まあな」
さらに二匹の距離は広がり、もうすぐ10メートルにも達しそうだ。
それを見て、若いチャオはLiltaにつぶやいた。
「あれじゃあGaleさん、勝ち目無いですね」
「でも・・・・・・彼なら、どうにかしてしまうような気がします・・・・・・・」
チャオはLiltaをまじまじと見つめて、
「正気ですか?」
冗談抜きで尋ねた。