<24> 宴の始まり

「Gale、だね。 僕はRivelt」

誰もこの事態には気づかず、先ほどの話題で盛り上がったままだ。

「─Riveltとなら、いい戦いが見れそうだよな!」

おい。 待てよ。 誰か気づけよ。

「ちょっと、勝負に付き合ってくれない?」




Final dash <24> 宴の始まり




「対戦方式は一対一。 Cコースを先に2周した方が勝ち。 スターターは?」
「準備OKだよぉっ」
「写真判定班は?」
「一応。 フィルム切れそうだし、後で買ってこないと駄目ね」
「了解。 両選手、準備は?」

何でこんな事になってしまったのだろう。

「・・・OK」
「良いですよ、お願いします」

俺は別にいきなり走りたくなんか無いのに。



遡ること、十数分前。



「何だ、そこに居たのか、Rivelt。 丁度良い、ちょっとそいつと走れ」

俺が輪から居なくなったことにようやく気が付き、首を覗かせた。
ぐいっ、と引っ張られたかと思えば、そのまま引きずるようにしてそのチャオの元へ連れて行かれる。

「あれっ、僕も彼に勝負を挑もうとしていたところなんです」

Riveltと名乗るチャオは、俺を掴んだまま愛想良く微笑んで言った。
ヒーローの、ハシリ二次進化。 白ピュアの体色が、彼をより一層白く見せていた。
こっちを振り返り、更に賑わいを見せた彼らの姿に嫌な予感を抱く。

「なら早速準備に取り掛かろう。 正式にやろうか」
「僕がスターターやるぅっ」
「コースはどうする?」

やる気だ。
散り散りになって、レースの準備にとりかかっている。
やばい。 いきなり一騎打ちなんて。

「俺はやらな・・・っ」

言おうとした途端、ぱっ、と口を塞がれた。
白い手。 俺に手が届く位置に居た白いチャオは─

「そんな消極的なこと言わないでよ」

─背後に立つRiveltだった。

「・・・って勝手に決めるんじゃねぇよ! 勝負ってのは互いの同意を得て成り立つものだろ!!?」
「いや、ここでの勝負はお祭りのことを言うんだ。 悪いね、新入り」
「知るか! いきなりそんな─」
「・・・じゃあ、君は走るのが好きじゃ無いの?」

言い返せなかった。
断る理由なんて、本当は何も無い。
何を意固地になってるんだ、俺は。

「・・・あー、走れば良いんだろ、走れば!」

殆ど怒鳴るような肯定の声は、その場の全員の耳に届いていたようだった。



そして、今に至る。



「じゃあ、位置についてぇっ」

何でこいつがスターターなんだ。
少し燗にさわる、ボーイソプラノが響く。

「よーいっ」

少し腰を浮かせて、

「すたーとっ」

走り出す。
前方に、Riveltの姿は見えない。 ─スタートは、リード出来たようだ。

コースは、丁度車線の片側ぐらいの幅で、走るところだけ土になっている。
壁も無いので、見渡すと曲がりくねったきついカーブの多い道が見えた。

ちらっ、と後ろを振り返る。 お互い特にペースを変えず、距離も離れなければ縮みもしない。
─このまま、引き離してしまおう。
少し地面を強めに蹴り、体重を斜め前にかけた。



「おー、離してる離してる」

一匹が言った。
チャオ達はコースの外で、彼らの様子を眺めていた。
何匹かはカメラを持ち、ゴール近くではギャラリーが集まっている。
Liltaも、そこに居た。

「まずいなぁ、Galeさん」
「え? どこが? 圧倒的にリードしてるようにしか・・・」

つぶやくと、隣にいた一次進化したばかりのチャオが訊く。

「いいや、これはまだRiveltが優勢だよ」

と、後ろのもう一匹がそのチャオの横から割って入ってきた。

「どういうこと?」
「見ていれば分かります」

そう、二匹から目を離さずに答える。
その目は、心配の色を隠せないで居た。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第207号
ページ番号
34 / 47
この作品について
タイトル
Final dash
作者
ぺっく・ぴーす
初回掲載
週刊チャオ第162号
最終掲載
週刊チャオ第270号
連載期間
約2年27日