<23> 新入りの儀式
Final dash <23> 新入りの儀式
「ほーん、そりゃ大変だったな」
「レース学校からかぁ。 それなら期待できるね」
「私も前そこにいたけれど、あの怖いコーチってまだ居た?」
天気の良い日にこんな地下にこもるのも気が知れない。
しかし照明は天然の太陽光のようで、あまり不健康な気はしなかった。
でも俺には、そんな開放的な気分になって走ることは許されないようだ。
事務所の先輩チャオたちが5,6匹。
ほぼ全員が練習を引き上げて、俺たちの元へ駆け寄ってきたのだ。
渡良瀬が「うちの子達は新入りが大好き」と言っていたのは本当らしい。
所長とMealの間で、これを"新入りの儀式"と呼んでいるとか何とか。
「それにしてもLil、大きくなったね。 でもやっぱり可愛いなぁ─あれっ、Bellは?」
またか。
もういい加減この質問には飽きていたので、適当な話題を考えようとした。
話題─新入りのランナーが聞くべきことって何だ?
適当な事言えば良いんだった。 適当なことを─
「ところで、ここの事務所で一番速いのって誰なんですか?」
─しまった。 挑戦的過ぎだ。
「─・・・・・・・・」
案の定だ。 この中に居たりしたらどうしようか。
「・・・・ほーん、お前案外何かの主人公っぽいこと聞くんだなぁ」
「─はぁ?」
途端に、その場の全員がわいわいとその話題に乗った。
さっきの間は何だったんだ?
「一番速いって言ったら、"姐御"しか居ないね」
その中の一匹が言った。
全員、同じ意見であるようだ。
「でもあねごなんかに勝負を挑んだら、こてんぱんにされて泣いちゃうよねぇっ」
ニコニコ顔の子供っぽいチャオが首をかしげながら笑った。
俺は勝負を挑みたいなんて一言も言って無いと思ったが。
「君も中々速いって聞いたけど、いくらなんでも彼女には勝てないよ」
「そ、そんなに速いんですか?」
「速い速い。 一度所長に"光速を超えてる"とかなんとか言われてタイムマシン実験に連れてかれたくらい」
姐御、と呼ばれるだけの実力があるのだろう。
実験に連行されたとか、それが実話なのかはあえて気にしないことにした。
「その、姐御って・・・どんなチャオなんですか?」
「気前が良いチャオだよ。 それでもってとにかく滑らかなカーブのときの走りが凄いんだ。 それで─」
彼がその姐御についてアツく語るのはあんまりまともに聞いていなかった。
しかしなんとなく俺が敵う相手じゃないと言うことは分かる。
やがて皆がきゃあきゃあと姐御について語りだしたので、俺はなんとなくその場から離れようと思った、その
ときだった。
「でも、Galeさんなら彼と互角に競えるかも・・・」
Liltaの一言で、一瞬時間が止まった。 守越が喜びそうだ。
「─・・・そうだ、あいつとなら!」
「そうだねぇっ、ボクもふたりが走ってるとこ見てみたいなぁっ」
「いいじゃない、早速あの子も呼び出しましょう」
俺が呆然としていると、誰かが後ろから俺の腕を引っ張った。
くるっ、と自然に体がそっちへ向き、俺の視界にはヒーローチャオが現れた。
「Gale、だね。 僕はRivelt」
誰もこの事態には気づかず、先ほどの話題で盛り上がったままだ。
「─Riveltとなら、いい戦いが見れそうだよな!」
その一言だけが、はっきりと聞き取れた気がする。