<22> 所長室
Final dash <22> 所長室
さて。 じじいのことは、また今度ゆっくり考え・・・・・たくは無いが、
今になってはもうそれも昨日のこと。
歩行者天国をなんとかすり抜け、事務所の扉を開けた。 Liltaもついて来ている。
「なんだ、踏まれてこなかったっすか~」
Mealは俺達、いや、俺の無事を残念に思ったらしいが。
「とりあえず、みんなに挨拶しておいで」
渡良瀬にそう促され、またあの物々しいセキュリティの地下室へと足を踏み入れた。
パスワードはここの電話番号。 そんなので良いんだろうか。
階段を半分くらい下ったところで、Liltaが口を開いた。
「でもGaleさん、変じゃないですか?」
「何が?」
暗くて足元が良く見えない。
そんなだから、俺はLiltaの方を振り向かずに聞き返した。
「その、チャクロンさんの孫のFliaってチャオは・・・チャクロンさんに追い出されたって言っていたんでしょう? でもチャクロンさんは自分の息子夫婦がやったって」
「・・・それもそうだよな・・・」
かといって、Fliaが嘘をついたとも考えにくい。
あんなわがままで責任転嫁が得意な奴でも、大事なこととそうでないことの区別は俺より厳しい。
あの性格は知人に対しての冗談であって、本当は・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・でも、俺には学校を追い出させたよなぁ・・・・・
「チャクロンさん、いつも自分の家族の写真なんかを持ち歩くタイプなんですよ。 とてもそんな事をするとは思えないんです・・・」
「へー、写真か。 意外だな」
「8割は盗撮らしいですけど」
「・・・・・そんなことお前に言ったのかよ」
そこで会話は途切れた。 地下室最終隔壁にたどり着いたからだ。
さっき貰ったばかりのカードを、KEEP OUT扉の側にあるカードキーへ通す。
いつの間にか俺の生体認識に関しては登録が完了しているらしく、撃たれる前にチャオ用の機械へと瞳を近づけた。
ぷしゅーっ、と、アニメなんかでよく聞く音と共に、扉が開く。
首にヘッドホンを下げ、チャオ用の上着を羽織っているヒーローチャオが一匹。
無機質な廊下でひとり、壁を背に立っていた。
何か物音が聞こえたかと思うと、がちゃっ、と目の前のドアが開く。
「─あれっ、Rivelt?」
「あ、所長っ・・・・えっと、その、これは・・・・・」
Riveltと呼ばれたチャオは、あたふたヘッドホンをいじりだす。
守越は彼に近づいて屈みこむと、ヘッドホンを首からはずした。
「あー、これ前に開発した障壁対応盗聴器に良く似てるなぁ─失くしちゃったんだけど。 Mealの奴、これをモデルにしたのかもね」
まじまじとヘッドホンを見つめ、そこからぶらさがった聴診器のようなものは見てみぬふりをしている。
Riveltは視線の行き所に困ったように、目を泳がせた。
「─あの・・・・」
「何? それにしても今日は暇だなぁ」
言いながらヘッドホンを返す。
Riveltの方は一瞬受け取るのをためらったが、何も言わず首にかけなおした。
「最近少ないですね、新入り」
厳しい目つきを隠すためか、すこし下を向いたまま静かな声で尋ねた。
「・・・・・・・・・・まあね・・・」
妙に間を空けて、
「そうなんだけどね、また昨日新しく入ってきた子が居るんだ」
と続ける。
立ち上がって、いましがた出てきた部屋のドアを開けた。
守越がRiveltを手招きすると、彼もそれに続いて部屋へ入っていく。
─どういうつもりなんだろう。 こっちの考えてること、ばれちゃったのかな・・・
ドアを閉めると、今度はソファに座るように促された。
Riveltの体は、緊張したように縮こまっていた。 表情にもポヨにも出さないが、守越にはそれが分かったらしい。
「紅茶でも飲もうか」というと、彼は戸棚からガラス瓶を取り出した。
紅茶なのに何故かビン入りだが、Riveltにはその理由が安易に想像できた。 中の茶色い液体が、炭酸の泡を発している。
守越が紅茶を注ぐ間(コーラを注ぐような音がしたが)、Riveltはさり気なく散らかった部屋を見回していた。
そこで、ふとある一点に目が留まった。 テレビの前に、ビデオテープが転がっている。
「お待たせー。 ちょっとクセのある味だけど、気に入ってるんだ」
言いながらティーカップをふたつ置いた。 ぷちぷちと泡がはじける上に、湯気まで発生している。
ローテーブルを挟んで向かい側にあるソファに、守越も腰掛ける。
「ありがとうございます。 ところで・・・それ、何のビデオですか?」
「あぁ、コレ?」
ソファから手を伸ばし、ビデオを拾い上げる。
「その新入りの入所テストを録ったやつだよ。 見る?」
「・・・お願いします─」
守越はそれをデッキに入れ、何かボタンを押した。
テレビの電源も入れ、画面が現れる。
─どんなチャオなんだろう、Gale・・・・