<21> 帰ってきたアイツ
Final dash <21> 帰ってきたアイツ
「チャ・・・・なんて言った?」
「チャクロンさん、ですよ。 隣の国の、有名なランナーです」
Liltaの答えは、殆ど俺の予想通りだった。
チャクロン、といえばFliaの祖父の筈だ。
─そして、Fliaを見捨てた張本人でもある。
・・・・それより、何故その”有名なランナー”がこんなところに居るのかを、俺はまず不思議に思うべきだろう。
「チャクロンさん、今日はお休みですよ」
「貴様らが休んでおっても、じじいは休んで居れん」
そう言いながら、目の前のサンドバッグを睨んだ。 人間用サイズだ。
すっ、と構えるのを見て、20センチぐらい宙に浮いたそれを蹴ろうとしていることが俺には分かった。
黒い体から、かなりの気迫が感じ取れる。
・・・・・・"じじい"なんだろ?
ぐっ、と地面を足で押し込む。
そのまま目にも留まらぬ速さでサンドバッグの真ん中あたりまで移動したかと思うと、
急にそれが大きく揺れて、台ごと倒れそうになった。 固定されていなかったら、横転していたであろう。
─その間、全く音が無かった。
「・・・・蹴った・・・・・のか・・・・?」
彼は着地すると、そのまま俺の方へ顔を上げた。
「見たか、若いの」
いや・・・・だから、"じじい"なんだろ?
「相変わらず、ですね。 お久しぶりです」
「やー、君も相変わらず可愛いのぅ、ご無沙汰じゃな。 あれ、Bellちゃんは? まさか俺以外の男の元行っ─」
「─てません。 えーと・・・兄を探しに」
「男に変わりないじゃろ。 ・・・まぁ、それはどうでもいい。 で、この若造は?」
どうやらこの事務所周辺に居る男共の習性は皆同じらしい。
「Gale、と言います─が」
自分でも、まだ俺が何を考えているのか良く分からなかった。
良く分からなかったが、そこまで言って、俺は(自称)じじいの前へ詰め寄った。
そうして、やっと、自分の考えを理解できた。
「Fliaというチャオは彼方の孫、ですか?」
「あー・・・・あの子か・・・・そうじゃが・・・・若いの、知って─」
ぐっ、とじじいの胸元を掴む。
自分でもびっくりするぐらいのスピードだった。
「って事は─やっぱり─」
知らないうちに、呼吸が荒くなっている。 多分、目がダークチャオのようにつり上がっているのだろう。
「てめぇだな、Fliaを捨てたのは!!」
もう、ぎゅっと睨みつけている。
ここから直系1メートルより外の世界のことなんて、今はどうでも良かった。
Liltaと、渡良瀬の目も、気にならない。
しかし、
「・・・・・は?」
彼から帰ってきたのは拍子抜けた返事と、とぼけた表情だった。
「わしは─孫たちには、なーんも関与しとらんよ」
「─へ?」
自然にじじいから手が離れる。 相手も、手が離れたのがまるで当たり前であるように振舞った。
「躾も、学問も、レースも、教育はみーんなワシの息子と嫁がやっとる。 レースに関しちゃ、二匹とも専門家じゃし、今頃皆速うなっとると思っとったが・・・・」
「え・・・・・っと、おい、じゃあちょっと待てよ、Fliaを追い出したのは・・・」
「んー、息子か・・・いや、嫁の方じゃろ。 あの子はキツイからの~」
つづく。