<20> 趣味

「冗談言わないで下さい。 趣味にも程があります」
「あの人の趣味には程が無いのよ」

渡良瀬が草むらの影にあるレバーの暗証番号をあわせ、それを思いっきり引っ張る。

「まさか・・・今日、エイプリルフール?」

365分の1の確立にかけて訊いたのに、答えはそのまさか・・・では無かった。



Final dash <20> 趣味



そこは、暗い下り階段だった。
足元が見えるように照明がついているだけで、
天井が何処にあるか分からないぐらい真っ暗だった。

地下の、チャオレース専用練習場。
俺の知る限りでは、練習場と言うのは少なくとも軽くグラウンド2つぐらいの広さがあるものの筈だ。
それなら確実に近隣の建物や道路の下にまで及んでいるはず。

「違法ですよね?」
「そうなんだけど、所長があんなんだから」
「何かまた拡張しました?」
「今タイムマシンを作ってるみたいだけど、なかなか上手くいかないみたい」

Liltaまで平然としているので、まるで俺だけが別世界の住人のような、妙な気分だ。
数分階段を下っていくと、見るからに怪しい扉(KEEP OUTと書かれている)が見えてきた。

「ここが面倒なのよね」

渡良瀬は扉の前に立って、側にあるカードキーにカードを通した。
と同時に、がちゃっ、と音がする。

「─っ何だよコレ!!」
「念には念を入れて、ですよ」

どこからともなく数本のマジックアームが現れる。 先端には銃が取り付けられ、鈍く光っていた。
銃口はまっすぐ、渡良瀬の頭を狙っている。

「セキュリティ突破されても、警察が呼べませんから。 部外者はここで始末するしか無いんですよ。 といっても半分冗談なんですけど」
「程があるだろ?」

それに部外者が何の為にここに来るのだろう。
渡良瀬はそのまま手のひらをカードキーの隣にある機械にあて、レンズに目を近づけた。
するとやっと、扉ががたがたと開く。 自動式だった。

「ったく、冗談じゃ無ぇ─」

その奥の世界は、明るかった。





「先輩、さっきの紅茶の煙はなんだったんすか~?」
「ドライアイスだよ。 炭酸レモンティーを試していたんだ」
「さいっすか~」

テーブルを拭き、椅子を片付ける。
部屋がよりいっそう殺風景になったところで、二人─一人と一匹は会議室を出てオフィスへ向かった。


ばたん、とドアを閉め切って、廊下は静かになった。
静寂に色が付いたかのように、廊下は灰色に静まり返った。
─でも、またそのうちうるさくなるだろうな─
廊下にかかる時計へ、目をやった。 もうそろそろ、ふたりが「実験」をはじめる時間。

そっと、壁に小さな身を寄せた。 ぴたりとはりつき、チャオ用のヘッドホンをかぶる。
吸盤状の聴診器のようなものを、壁にあてた。

左右を見渡して、すっと目を閉じる。





「・・・・もう、この際俺は法律なんてどうでも良い・・・・」

俺にそういわせた地下練習場は、巨大だった。
トラックが2つ、うち一つは土になっていて、その奥には坂道やプールのちゃんとついた複雑な練習コース。
入り口の左右にも部屋があり、右に休憩室、左には多分練習器具なんかがあるのだろう。
どうやって作ったかは、あえて考えないようにすると決め込んだ。

「普通事務所単体でこんなの無いって・・・・すっげー、すっっげ~」
「学校はどんな感じだったの?」
「少なくともタイムマシンは無かったと思います」

向こうの方に謎の扉が見えたが、入ってみようと言う好奇心が恐怖心に負けた。
チャオは一匹も居ないが、何故か照明が付いている。

「今は何匹ぐらいここに所属してるんですか?」
「小さなところだからね、十数匹しか居ないわ。 今日は一応お休みだから、誰も来ていないけれど」

Liltaが天井を見上げ、電気のスイッチの方を見つめた。

「でも照明が・・・・もしかして?」
「そうかもしれないわね」

渡良瀬は、そういうと左の部屋のドアに手を掛けた。 Liltaも続いてついていく。

「何なんですか?」
「ちょっとひとり、熱心なチャオがね─」

ドアを開ける。 予想通り練習器具と、予想に反して妙な機械が置いてある。
そして─


「チャクロンさん、また来てたの?」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第192号
ページ番号
29 / 47
この作品について
タイトル
Final dash
作者
ぺっく・ぴーす
初回掲載
週刊チャオ第162号
最終掲載
週刊チャオ第270号
連載期間
約2年27日