<18> 弄

整っているのやらいないのやら、形こそはいい短い髪も、少しぼさぼさした印象を与えるが、
起きた時のまま何もしないのでは絶対にあの形に整わない。 でも、抑えた色の黒い髪の集団から、何度確認してもやっぱり仲間はずれがいた。 そんなのが目の前に居る。

さて、一体どうしたものか。



Final dash <18> 弄



地面が、足と無理矢理擦り合わさり、
文字通り、風を斬った感覚。
また、こんなに早くに、この感覚と会えるとは思えなかった。
あの男の出現のおかげで、本来よりもっと早く会えた。

スムーズに狭い景色が流れる。
その男の背中、一点だけ目指して、翔る。
でも、何もただ真っ直ぐに行っている訳ではない。

壁と、地面とが、直角に交わった路地の端の端。
直線を描きながら、その位置へと足を持っていく。
次は、反対側へ、その次も、反対側へ。
ジグザグに飛ぶように、しかし目標は一つだった。



「へ~、すっげ~」

レンズ越しに、その線を凝視。
これ以上面白いものは無いと言う表情だった。
明るい、やつれた光をバックに、
暗い路地を、ただひたすらレンズ越しに凝視。

Galeという名前らしい、彼の先輩の後ろを走るソニックチャオを目で追った。 連動して、レンズの先も揺れる。
それは、確実に先輩に近づいていった。
足音の殆ど無いチャオのこの行為を、知ってか知らずか、先輩はペースを変えないまま。

「お~、あとちょっと」

あと1メートルのところで、彼は先輩の背中の真後ろへ来た。
そしてそのまま、真っ直ぐに飛びつく。

「へ~、ほんとにすっげ~」



飛びついている間にも、俺には準備が出来ていた。 身構えてある。
にも関わらず期待を裏切って、男は俺が背中に飛びつくと、何の抵抗もなしに急に立ち止まったのだ。
思わず体勢を崩して、背中から落ちそうになったが、その白いシャツをひっぱってなんとかこらえた。

「・・・・どーいうつもりだかしらねぇが、そのチャオを返せ。 日が暮れる。」

数秒の静寂がのろのろと無駄に流れた。
その間に肩を乗り越えて、Liltaの状況を確認しに言ったのは言うまでも無い。

手を振って、Liltaは俺に笑顔で答えた。
良かった、大丈夫だ、と思った一瞬だった─

「やっ、どーもー。 ご苦労様、それとおめでと」

─という声を聞いたときには、俺の目の前にはその男の顔が合った。
頭を片手で捕まれて、俺は奴の手中にあった。
Liltaは片手で抱きかかえられている。 一瞬の出来事だった。

「・・・・・はぁ?」

まぁ、妥当かつ正当な台詞だろう。

整っているのやらいないのやら、形こそはいい短い髪も、少しぼさぼさした印象を与えるが、
起きた時のまま何もしないのでは絶対にあの形に整わない。 でも、抑えた色の黒い髪の集団から、何度確認してもやっぱり仲間はずれがいた。 そんなのが目の前に居る。

「やだなー、もう。 冗談かと思っちゃったよ。 まさかあんな動きしてくるとは思わなかった」

優しく、それでも鋭い目が心から楽しそうに笑っていた。
あの優しい光は多分騙しだ、と俺は推したが。

「あぁ、ご挨拶がまだだったかな。 ごきげんよう、当レース事務所コーチ、守越と言います」

つかんだまま、俺の頭を親指で撫でる。

「以後、お見知りおきを。」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第188号
ページ番号
26 / 47
この作品について
タイトル
Final dash
作者
ぺっく・ぴーす
初回掲載
週刊チャオ第162号
最終掲載
週刊チャオ第270号
連載期間
約2年27日