<17> 計算外 つづき。
妙に直線ばかりが続く。 走行時間数分目にして、角を曲がったのも、2,3度程だろうか。
しかし、無駄に走っていた訳ではない。 その数分の間に、気が付いたことが一つ。
「・・・・バテてねぇ・・・・」
男は何分経ってもペースを変えず、ただ淡々と同テンポで左右の足を同じように動かすだけなのだ。
間隔も、多分巨大な定規で測れるぐらい30メートルきっかりを保っている。 いっそ、計ってやりたい。
良く見ればがっしりとした体躯、をしているわけでもなく、割に細身と言うか、ひょろひょろしていて背が高いというだけで、そこまで体力があるようにも見えなかった。
それ以前に、どこかスキップしているように見えるのは俺だけだろうか。
どちらにしろ、走り慣れている。 誘拐の常習犯か?
いや、まず、何でLiltaが誘拐されたのかが良く分からない。
Liltaをわざわざさらって、身代金を要求? 誰に要求するんだか。
それとも、Liltaのようなチャオが欲しいとか? いやいや、別にノーマルなピュアチャオ。
俺を困らせたい? 何で。
ん? 俺─?
そうだ、俺が目的ってのも、アリだよな。
あの男本人が俺に用があるのか、それともまだ上に誰か居るのか。
俺って、どういうチャオだ? レースが好きで、レース学校退学になって、野良になって、TrackやBellと勝負。
事務所に行くことになって、Mastさんにだけ、確かこのことを話した。
・・・派手な動きと言えば、退学ぐらいだ。
─っかし、本当に俺ってレースのことしか考えて無かったよな・・・
その走り慣れした男の肩から見えるLiltaのポヨだが、そっちはちっとも形を変えず、球体のままだった。
しかし、30メートルの差がありながら、ちっとも姿をくらましたりしない。
絶対に、俺から見える位置に居るのだ。
あの余裕から見て、もっと速く走れるはずだ。
変なところだらけだ。 俺を巻こうとしない。
「─ということは、やっぱり・・・俺が目的か?」
思わず声に出してしまう。 小声なので、向こうには聞こえはしなかっただろうが。
しかし、そういう走り方─どこかで見たような気がする。
どこだ?どこだった?
そもそも、人間の走りなんて、レース学校でしか見たことが無い。
それなら・・・・そうだ─
「・・・・あ、コーチの走り方と一緒だ・・・・」
─まさに、コーチが生徒に前に居るチャオの抜き方を教えるために、前で走っていたアレだ。
なんだ、俺、わりと授業聞いてるじゃん。
何だ、なら、そういうことか。
─全く、人間の考えることって、計算外だ。 分からない。
少し加速し、勢いをつけた。
地面をこすって、蹴る。
風斬の、直線的なイメージを、lunatic runの足の弾きに重ね合わせ。
もうそろそろ、ケリをつけるつもりだ。