<17> 計算外
Final dash <17> 計算外
「─っちょ、まっ・・・・─いいから、通してくれ!!!」
そんな言葉にならない言葉を発しながら、人々の間を無理無理通り抜けていく。
いや、通り抜けていく、なんてスムーズなもんでも無いな、いつもならそうやって自分にツッコミを入れている筈なのに、
どういうわけか、今日はそんな余裕は無い。
─Liltaが誘拐されかけているのだから。
男がLiltaを抱えて入っていった路地に、ぴょんっと飛び込み、やっと人間雑木林から解放される。
ラッキーなことに、長い通りで、あれだけ大通りでてこずっていたにも関わらず、まだ男の姿は前方30メートルほど先に確認できた。
といっても、途中に曲がれるところもひとつふたつあるのに、ずっと男は直進している。
通りからも、ちょっと覗き込めばその後姿を見つけられるぐらいだ。 こいつ、馬鹿だな・・・
それとも、俺か、他の誰かが追ってくることを計算に入れなかったのだろうか。
さて、人間の足は本気のときにどれぐらいの速さになるものなんだろう、と、
不謹慎にも「いい機会」なのでしばらく男を観察してみる。
しかし、人間だ。 同じ二足歩行する生き物でも、チャオとは足のリーチが違う。
それに、追うという事は長期戦だと嫌な程知っているので、あんまりスタミナも消費したくない。
差は30メートル。 相手に曲がる気配なし。 俺のスキルも当てにならない。
(やっっっっべーーーーーっっ!!!!?)
今朝の台詞が、またこんなところで使えるとは思わなかった。
よく考えれば、いや、よく考えなくても、十分にヤバい事態だと、普通なら最初から気が付くべきである。
─楽観視してる場合じゃないんだよな─
まさか、人間と勝負するハメになるだなんて、まるで計算外だったのだから。
「あのぅ・・・・守越さん?」
「やぁ、Lilta、久しぶり。 あはは、しばらく見ない間に随分成長したんじゃない? 前はまだ幼体だったからね。」
Liltaは、別に男に口を押さえられているわけでも、気絶しているわけでもなく、それに抵抗もしていない。
ただ、走っている男に抱かれているだけだった。 それに、とても落ち着いた様子だ。
「・・・ご無沙汰しています。 いえ、それより、どういうつもりで?」
「ふふふ、僕の情報網をナメちゃいけないよ? ─Mastとは、飲み仲間なんだから。」
守越と呼ばれた男は、ただ色の一点一点が線に引き伸ばされて流されていく景色の中で、ただ前を見たまま口角を上げた。
「─いつから?」
すこし目線を後ろに向け、確認したようにまた戻す。
「ずっと前からさ。」