<14> 風斬
Final dash <14> 風斬
久しぶりに、私の足が地面を蹴る感触。
嫌いじゃない。
むしろ、普通に立っているだけじゃ全く感じられない風を、まっすぐ正面から受けるのが、涼しくて。それが目を乾かすのが、懐かしいような気もする。
分かっている。私、レースは好きで、好きで仕方が無いんだ。
─でも、どうしてだろう・・・・・ 私、あの子の事は・・・・大嫌いで・・・仕方が無い・・・・─
ヒュンッ、と、私の側を鋭い風が切った。
もっと細かく言えば、後ろ斜め上からだ─一体、何?
「─!!?」
すぐ目の前に見えるのは、間違いなく彼─Gale。
彼は私の方をちょっと振り返ると、すこし笑みを作った。
─普通なら、勝ち誇った笑みを作るところ─でも、何か、また、違ったような気がして─
「参考にしてもらったぜ─あの曲がり方、随分俺の知ってる走行法と似てたからな」
ぐっ、と彼が地面を片足で押すのを目に捉えた。
─もう、次の瞬間には、4,5メートルも前方にいる。
「じょっ─冗談でしょ、まさか─まさか私の走りを真似たって言うの!!?」
それは、どう見ても私がカーブを曲がるときの移動法と同じ。
それをただ、直線のコースで低空に使ったにすぎない、筈─。
「ちょっと、アレンジしたんだけどな─いいなぁ、コレ」
もう、今は最終ラップ。
次のカーブを曲がれば、ゴールまで一直線・・・
しかも、加速している私のスピードと同じように、彼もまた加速をつけている。
次のカーブで、彼より早く曲がる準備に入らないと、負けは確実─
焦りが、思ったよりもずっと早いうちに足を押していた。
3メートルも前の十字路の角に向かって、斜め上へと空気を裂く。
その角をもう一度蹴って、カーブを出るつもり─でも、慣れない程離れた距離からあわてて入ったカーブでは、バランスを崩しても当然だった。
「・・・大丈夫か?」
俺は見事に空中で円を描いて硬い地面に落ちてしまったBellを覗き込んだ。
地面に座り込んだまま、右足をさすっている。
「─馬鹿ね・・・・ 勝負はまだ終わってないのよ」
「─!!」
いつ立ち上がったのやら、一瞬にして俺の目の前からBellの姿は消えていた。
振り返れば、もうゴールに向かって駆け出している。
「あっ─待てよ」
俺が追いかけようとした頃には、もうBellはLiltaの側に居た。
「彼方の負けね」
「卑怯だ、そんな─」
「勝手にわざわざ戻ってきた彼方の責任でしょ」
そっちの方へ、俺も歩いていく。
「─足、いいのか?」
「あら、変なこと心配するのね。ちょっと打っただけなのに」
俺、多分詐欺なんかに騙されやすいタイプなんだろうなぁ、と、今更人間ではないことに胸をなでおろした。
「・・・・よく、見ただけで『風斬』をマスター出来た物ね」
「風斬?」
「カーブのときにやった走行法よ」
あぁ、アレか・・・・実は、もうあのお陰で足が棒のよう、鉛のよう。へろへろになっているのである。
「似たようなの、知ってたんでね。そっちも初めてだったんだけど」
「・・・ふぅん・・・にしても、甘いわね。敵に情けをかけるってやつ?気持ち悪い。」
「なっ・・・・何だとコノ─」
そこまで言って、言葉を飲み込んだ。
逆鱗に触れるつもりか、俺は。
「・・・・まぁ、負けは認めるけど・・・・」