<12> 交換する者、されるモノ
Final dash <12> 交換する者、されるモノ
一夜眠って、昨日のことも気にしなくなれた頃だった。
午前中、何をしていたのかは覚えていない。ただ、適当に過ごしていた様な気がする。
そんな時間をつぶすために、もしこれからもこっそりと、またLiltaにレースを教えられるなら、どんな風に教えようか、と考えていた。
教えたいこと、
それを教えるための言葉、
それを身に着けるための練習メニュー、
それを習得できるようにするためのコツ。
今思えば、こんな風に学校のコーチも考えていたのか、と。
一方的に怒鳴り散らしていただけだと思ったが、一応、ちゃんと計画は立てていたようにも思える。
そんな昼下がり、そのときだった。
部屋の瓦礫で出来たドアを、コンコンとたたく音に気が付いたのは。
「誰だ?」
─扉を開けた先にいたのは、Liltaだった。
「どうしたんだよ、こんな夜中に。Bellは?」
「あの・・・お姉ちゃんが・・・」
「Bellが?」
「・・・あの・・・・相手をしろって・・・・」
「・・・・レースの??」
こくり、とLiltaは頷く。
何で急に・・・そもそも、レースが嫌いな上にもう俺とは関わりたくなかった筈だ。
でも向こうからもちかけてくるのなら、迷う手間が省けて、楽なのは確かだった。
とりあえず、Liltaに案内してもらい、Bellのもとへと行くことにした。
Bellが居たのは、丁度俺がTrackを捕まえた通りの、曲がり角だった。
夕方に入る少し前の黄色い西日が、この前の暗さで分からなかった細かな風景を照らす。
「どういう風の吹き回しだよ」
いい加減、腹が立っても可笑しくない所だよな。
たとえ相手がBellでも、正しいよな、俺の言ったことは。
「一度、勝負して。彼方が勝ったら、その子はあげるし、もうひとつ、彼方にとって有利な情報を教える。ただし、私が勝ったら、出て行って頂きたいわね。」
「はぁ?そもそも有利な情報って─」
「そうね、例えばチャオレースの事務所を紹介する、とかかしら」
とたんに体の中を電撃が走った。
「─本当かよ!?」
「本当よ。現に私が前に居たところだわ」
とりあえず信用するとしよう。
それより、問題なのは─
「で、Liltaをあげるってのは、何なんだよ」
「─もう、その子、要らないから。それにあなたに懐いている様だし、この子もそうしたいらしいけど」
俺は、となりに立つLiltaの方へ目を向けた。
何でもなさそうに、無表情で俺の顔を見つめ返している。
─一体、何考えてやがるんだ─
「要らない、って─」
「チャオなんて、交換されて当たり前のモノでしょう。 現に、レースやアイドルの事務所、チャオの研究所なんかでは、役に立たない、要らないチャオは簡単に他に売り飛ばしたり捨てたりするんだから。 チャオの運営している事務所なんかでも、ごく日常的にチャオの売買や交換がなされるわ。」
「だからといって、Liltaはお前の妹だろ─ふざけんなよ」
「関係ないわね─今のチャオが人間とほぼ同等の位置にいるのだって、そのお陰でしょう」
「それこそ関係無ぇだろ、いい加減にしろ!」
「─あのぅ・・・もう、いいですよ」
つい熱くなっていたせいだろう、俺はLiltaにずっと手を引っ張られていることに気が付かなかった。
「もういいって、なんとも思わないのかよ」
「いいですよ。お姉ちゃん、私のこと、嫌いですから」
「─そんな、お前はあいつのこと、尊敬してるんだろ!!?」
「・・・尊敬していてもいなくても、嫌われたら関係ありませんよ・・・」
その投げやりな言葉に、もう我慢が出来なくなった。
でも、何の我慢を解いたのかでさえ、分からない。
「さぁ、どうするんですか。 この勝負、受けるんですか?」
─もし、俺が勝負を受けなかったら、それとも、勝負に負けたら─Liltaはどうなるのだろう、と、考えてしまう。
珍しいことに、選択肢が一つしかない─
「受けるよ。勝ってやる。」