<11> 馬鹿
Final dash <11> 馬鹿
「Lil、何やってるの。戻ってきなさい」
「─で、でもお姉ちゃん─」
「いいから。レースなんてやるんじゃ無いわよ」
泣かないが、泣きそうな目で困ったようにこっちを見つめられては、デリカシーの無い俺には何も出来ない。
柄に沿った行為と言えば─
「てめぇ、んな言い方は無ぇだろ。好きなんだからやらせてやりゃあいいだろ」
相手を逆なですることぐらいだ。
「五月蝿いわね。他人が口出しするんじゃないわよ。私はその子の姉なのよ」
「─姉、って─? まさか本当に姉妹なのか?」
「そうだけど─・・・Galeさん、もしかして、お姉ちゃんの名字、知ってるの?」
「え? あ、そうだけど、名字がお前と違─」
そこで俺は言葉を切った。
Liltaが、ふっ、と、少し下に目をそらしたのだ。
「悪いけど、彼方とはもう関わりたくないのよ─来なさい、Lil」
Liltaは戸惑ったようにBellへ、そして俺のほうへ目をうろうろさせる。
「・・・─あ、Galeさん、ありがとうございました。ごめんなさい」
ぺこり、と頭を下げて、彼女はBellのもとへ戻って行った。
別れ際に、一瞬、こっちのほうを振り返って。
「─・・・・・・俺は馬鹿か・・・・・・!」
額に手を当てて、悔やんだ。デリカシーが無いにしろ、それにも程がある。
そうだ。二人の名字が違うのは、単に師弟関係にあるからではないのだ。
Liltaには、悪かったな─そこで、俺の後の行動は二択に迫られた。
一つ。二人の詳しい関係について、聞きまわる。
もう一つ。もう、このことには触れない。
圧倒的に後者は安全だが、前者は危険だった。
Liltaのことを考えてもそうだが、何よりBellが一番怖いのだ。
「彼方とは、もう関わりたくない」─それを聞いて、Bellのことは大体もう察しはついてしまっている。
要するに、彼女はレースが何らかの理由で、大嫌いなのだろう。
そうでなければLiltaもBellに叱られると分かっていながらわざわざ俺に教えを請わないだろうし、
俺と関わりたくないと言うのも、俺がレースをやっていることを知っているからからなのだ。
「だーっ、くそ、どうしろってんだ!」
誰も俺に強制しているわけではないと分かっていながら、簡単なベッドに身を投げて悪態をついた。
天井からぶら下がる裸電球でさえが、俺の視界にとって邪魔なものに思えてくる。
ただ、正直に言うと、
「─面倒くせぇ、もー、放っときゃいいよな!!!!」
これが第一希望なのだ。
性に合わない、考え込むのは。突っ走るタイプの筈なんだ、俺は!
知ったこっちゃ無い、それが一番安全なんだ。
二人のことを調べたところで、何になる。それこそどうするんだ─
その日は、夕飯を食べていないことも忘れて、もうそのまま眠ることにした。