<9> 路地裏の主
Final dash <9> 路地裏の主
「ぁはは、そンで、Bellに連れて来て貰ったって?」
「・・・・・はい・・・・・」
「ぁぃつ、嫌々だったろぅ?」
「・・・・・まぁ・・・・・」
あの後、帰り道も分からないままひとりたたずんでい─るのも流石にやばいと思い、
恐る恐る、Bellの後を追って、この瓦礫の城まで連れてきて貰った訳だが、
その間彼女は一言もしゃべらず、気まずい雰囲気が続いたのである。
帰ってきたときには、走りまわったこととは関係無しに、へとへとだった。
「・・・そういう訳で、また一晩泊めて貰っちゃう事になるんですけれど・・・・」
そういうなり、ぽんっ、と、最初に会ったチャオ─Mastが肩をたたく。
同時に、シャークマウスの口角をにぃっと上げた。
「仕事先は、決まってねぇんだろ?」
「─・・・えぇ、まぁ・・・」
「んで、住むところは?」
「・・・まだ決まってませんけど・・・」
もう、言いたいことが分かる。
「決まり!ここに住め!!」
更に今度は勢いよくバシッと叩かれたものだから、こけてしまうかと思った。
「いいんですか?俺みたいな非力で無礼で何もしないぐうたらが?」
「おー、よぅ分かっとるじゃなぃか。でも、どンな奴だろぅと受け入れるさ。実際、ォレの方がャバィ」
「・・・さいですか・・・」
一体何がヤバイのかは、あえて聞かないことにした。
何故か、全部、と言われるような気がしてならない。
「でも、ここのリーダーの人とかに許可は─」
「ぁ?ォレがリーダーだけど?」
「─は?」
昨日今日の様子からして、とてもそんな風には見えないが、
よく考えれば最初にここに来たとき、先頭を取っていたような気がしなくも無い。
「こぅ見えても強ぃンだからな、ここらのボスチャォなんだよ、一応。」
そういって腕を曲げて見せたが、はたしてチャオに筋肉なるものがあるのだろうか。
周り全員すっかり寝静まっていると言うのに、
それに俺も俺で真夜中に帰ってきた上へとへとだったはずなのに、
いつまでも二人で話し込んでいて、飽きなかった。
MastはMastで何故か沢山置いてある人間用の酒類を一人で飲むものだから、
最後には酔いつぶれてしまったようだった。仕方なく、廊下を引きずって部屋まで連れて行ったが。
「歓迎して、話に付き合ってくれてるのかもと思ったんだけど、酒飲むんじゃ、なー・・・」
不思議なことに、まだ眠れずに俺は外に出る扉に手を掛けていた。
もういい加減、夜が明けてしまいそうだ。
周りを見渡すと、薄暗い中にひとつ、影を見つけた─Fliaが、数メートル先の曲がり角に立っていた。
「Flia!?こんなところで何やってんだよ─!」
「あ・・・Gale・・・」
駆け寄って来る俺に、Fliaは静かに振り向いた。
「まだ帰ってなかったのかよ、危ないだろ」
「・・・帰る気になれないの」
「─?」
Fliaのそばで、俺は足を止めた。
俯いて、さっき泣いていたときよりずっと暗い声だった。
「─・・・私、もうレースなんかやりたくない」
「はぁ?何で─」
「・・・チャクロンの直系の孫・・・のはずなのに・・・ちっとも才能が無いもの・・・彼の言うとおり」
「気にするなっての、アビリティは滅茶苦茶良いし、基本がしっかりしてるって、言われてるじゃないか」
事実、学校での成績はかなり良い方だし、模擬レースでも上位を取るほうだ。
コーチにも形が良いからFliaの走り方を参考に、とまで言われるぐらいなのだから、正直に俺も羨ましい。
「でも・・・跡継ぎは長女の私だった筈なのに、学校に放り出して、家族は弟の方に一生懸命なんだもの・・・御爺様にしてみれば、私なんてとんでもない出来損ないなんでしょう・・・・」
俺は何か言おうと、口を開こうとした。
でも、そうする前にFliaは立ち上がって、こっちを振り向いた。
「─ごめん、こんな夜遅くに。さっさと帰るわ。変な話聞かせちゃって、悪いわね」
その微笑が無理矢理作られたものだと言うのは、いくら鈍感な俺にも簡単に知れた。