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Final dash <8>
かなり土埃の積もった地面だったせいもあろう、よく見ればFliaの足跡がくっきり残されている。
さっきまで追いかけることに熱中していて気がつかなかったが、Trackはこの足跡を辿っていたのだろう。
しばらく歩いていくと、かすかに何か音が聞こえた。
音の聞こえるほうへすすむにつれ、それがしゃくりあげる音だと、そしてFliaの声だと分かってくる。
─曲がり角を曲がったところに、Flia─と、もう一人、誰かがいた。
「─Flia?」
呼びかけると、Fliaこそ微動だにしなかったが、もう一人の、ぼろぼろになったフード付の黒い服を着たチャオがこっちを振り向いた。
周りが暗く、フードをかぶっているせいでよく顔が見えないが、ポヨから察して、ヒーローチャオであることが分かった。女の子だ。
彼女はFlia.のせまい肩を小突くと、また顔を黒い服の袖にうずめた。
それと同時に、Fliaはこっちを振り向く。
「─Gale・・・」
まだ震えた声でつぶやくように言った。
「ずっとお前のこと、追ってきてたんだ」
俺は無意識にFliaのほうへ歩み寄っていった。
「Trackだけどさ─あいつ─」
「ううん、もういいの。私もよく分かってるから」
「─え?」
頬に涙の後がまだ残っていたが、口元だけで微笑んで少し上を向いた。
「Track、すごく疲れてたから。私に甘えっぱなしだったわ。毎日マスコミに追い掛け回されて、毎月の大会に追われて、スケジュール帳もこっそり見ちゃったんだけどね、ペンで真っ黒だった。Galeにも、あれで本当は甘えていたんじゃないかって。表面では見栄はってたけれど、ああやって罵って安心しようとしてたんじゃないかな」
そういえば、あのときにTrackが昔話をしていたときの口調は、100%、仕事のことは忘れて安心した様子だった。あれで甘えていたなんて、不器用なんだな、奴も。
「─なんだかんだいって、可愛いね」
「─チャオだからな、一応」
よく言われることだが、最近のチャオはどうも人間に似すぎて可愛くないらしい。
というのも、人間がチャオに色々教え込んで墓穴を掘ったのが原因なのだが、
やっぱり、それでも幼くていいんじゃないか、チャオだから。
─あぁ、俺も、退学させらるときに、コーチの前で地面でじたばたして大泣きすればよかった。本能に従って。
「─ところで・・・そちらは?」
さっきから気になっていたが、黒い服のチャオは相変わらず視線を変えていなかった。
「─うん、私の話、よく聞いてくれたの。そういえば、まだ名前はお聞きしてないわ」
「私の名前なんか聞いて、どうしたいのか知れないけれど」
鋭く凍った声で、そのチャオは返した。
何と言うか─怖い。近寄りがたい雰囲気だ。
まてよ、どこかで聞いたことがあるような気がする、このキャラ。
「どうしても聞きたいって言うのなら、教えるわ─Sliebell Fairong。」
─まさか─
「じゃ、じゃあ、Bellってのは・・・」
「そう、ご存知だったの」
矢張り。
「まさか、こんなところで・・・」
「どうしたの?Gale、知り合い?」
そうでもないんだが─
それにしても、噂どおりの口ぶりだ。
「Bellって、レースやってるって聞いたんだけど─」
「気安く接するんじゃないわよ、初対面の相手に」
「─あ、ごめん」
成る程、本当に噂どおり。
「確かに、やってたけど。もう遅いし、私帰るわ。」
それとだけ言って、彼女は路地の奥へ消えていってしまった。
「・・・怖いチャオだったね」
「・・・そうだな」
そろそろ夜も更けてきた。もういい加減眠いのだが。
生憎、帰り道が分からないと言うのも、いかがのものか。