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Final dash <7>

「─捕まえた」

誰かがやったように、口元で笑みを作って、俺はTrackを地面に押し付けていた。
もう夜もふけた頃で、月もかなり高くに上っている。

「コノヤロ、コーチに突き出して─?」
「ははは、いやー、懐かしいね」

「─は?」

なにが可笑しいんだ、こんなときに─
また馬鹿にしているのかと思って、俺は冷たく聞き返した。

「君さぁ、僕を捕まえようとするときは、いっつも後ろからとびかかって、こうやってねじ伏せるんだよね。よく昔ケンカしたじゃん、思い出しちゃった」
「─・・・はぁ・・・そう・・・」

手を離し、Trackも手中から離した。
逃げる気配も無く、体の汚れだけを軽く払って、俺の前に座り込む。
つい俺も同じ動作をしてしまった。

「うん、悪かった。本当に馬鹿なのは僕だったよね。どうだ、あっさりしてるだろ」
「─でも、自意識過剰にはかわらねーのな」
「君も口うるさいのは変わんないね」

まるで長い間あっていないような口ぶりだったが、本当は僕らはつい昨日会ったばかり。
でも、こんな─本当のTrackには、もう数年と会っていなかった。
今のTrackは、衣をかぶったような、ついさっきまでのTrackなんかじゃない。
そして俺も、Trackを忌み嫌っていた俺なんかじゃない。
多分、奴もこんな俺と会ったのは久しぶりだったんだ。

「お詫びと言っちゃなんだけどさ─まぁ、お詫びにもなんないけど、lunatic runのこと、教えたげるよ」
「─え?」
「素直に聞けよ、簡単な話だから。」
「じゃ、ありがたく聞くとするか」

二人とも地面に座り込んで、Trackはそのあたりの手頃なガレキの破片をひとつつかんだ。

「lunatic runっていうのはさ─一瞬だけしか使わないし、そう連発しないでしょ?
 あれはスタミナを普段の3倍使っちゃうからなんだよね・・・」
「やっぱりそうか」
「やっぱりって何だよ・・・・」

Trackはガレキで地面にガリガリと図を描いた。
一匹、羽を強調させて描いた、低姿勢で走るチャオの姿だ。
かなり古いコンクリートらしく、簡単に傷がつく。

「まず、スパートをかけるのと同じように走る─低姿勢で、チカラのスキルも使うようにして、地面を後ろにけるってこと。そして追い風になったら、羽を地面と平衡にして、ヒコウのスキルも使うんだよね。だから追い風のときにしか使えないんだよ。スピードが出る要因としては、コレが大きいかな」

先ほどの図に追い風を表す矢印を三本加える。

「─で、ハシリとチカラとヒコウをいっぺんに使うから、スタミナが三倍必要─ってことか?」
「ん、まぁね。ま、土産に覚えていって」

Trackは瓦礫の破片をそのあたりに放り投げ、二人とも立ち上がった。

「─で、そういえばFliaのことは?」
「あ・・・・悪いけどさ、君だけで探して話しといてくれないか?」
「─あぁ、そういうことなら」

きっと、今奴がFliaに追いついても都合が悪いから、だろう。
俺が話したほうが、信じてくれる。そういう考えだ。

「僕は自首しとく。ありのままに話せば、君の退学処分も取り下げになると思うけど─どうする?」
「あー、もういいや、学校は。ま、俺は好きに仕事探して好きにどこかで走ってるさ」

正直な話だった。
学校のことなんて、あの場所に入ってから、本当にどうでも良くなってしまったのだ。

「─いいのか?」
「いいさ。住むあてもあるし。なんならお前も─」
「いや、実はこっちも住むあてはあるんだよね」
「─あっそぅ。じゃあ一応これで─これで最後になる訳かな」

「─あー、そうだね」

Trackはそれだけ言ってクルリと後ろに向きを変えた。
数歩歩いたところで、もういちど振り返る。

「─もう一度言っとくよ、悪かったな─Fliaのことも宜しく」
「─ん、じゃあな」
「同じく─またね」

高く上った月と、たくさんの建物からの光がビルの谷間から僅かに届き、二つの影を多方向に伸ばす。
その影は、固い地面を張って、正反対の方向へ離れていった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第170号
ページ番号
10 / 47
この作品について
タイトル
Final dash
作者
ぺっく・ぴーす
初回掲載
週刊チャオ第162号
最終掲載
週刊チャオ第270号
連載期間
約2年27日