<4>
Final dash <4>
俺はどこからこんなにたくさんの食べ物が出てくるのか不思議に思いながらも、
一番奥の広間で、チャオたちに囲まれて木の実をほおばっていた。
色々と談笑したり、ふざけたり、卓上ゲームに興じたりと、思ったよりも彼らは楽しく暮らしているようだった。
─もう、俺は何も考えていなかった。もうここで生活してもいいや、とも思うくらい。
周りからの声には、時折方言なんかも混じって聞こえた。
「ところでさ、あんちゃん、どっから来たんだ?」
最初に出会った一匹に聞かれたが、別に反射的に
「─ん、チャオのレース学校から」
と、何気なく答えた。
そのまま話が続いて、その話題が過ぎるはずだった。
でも、心の中で、その言葉は妙にひっかかった─
─そうだ、俺は走るのが好きだったんだ─
まるで昔のことを思い出すようだった。ついさっきまでのことなのに─
「ふぅん、じゃ、レースやってたんやね」
「レースって言やぁ、Bellもやってたな」
何も気にしていないように「退学になっちゃったんだけどね」と言うつもりだったが、
俺の口から飛び出したのは、違う言葉だった。
「─Bell?」
どんなチャオだろう─俺はそう思って、聞き返した。
「そ。Bellってのはあだ名で本名はSliebell・Fairongってんだ。」
「でもここに来てから走ったりしてたのは見てないわね」
「年のころは─お前さん、14だっけか。あの子はもうそろそろ15ってとこだな」
ちょっと嬉しかった。ここにもレース仲間がいると思うと。
それに、年も近いし、趣味が同じとなると、どんどん興味がわいてくる。
ところが、
「ただなぁ─なんつーか、なぁ?」
「うん・・・近寄りがたいって言うか・・・怖い・・・っていうんかな・・・」
と会話が続くものだから、俺は
「はぁ・・・」
と答えるより仕方なかった。
さっきまで勝手に名前から想像して頭の中に浮かんでいた、明るくて可愛いチャオのイメージが引っ込み、
なんだかはっきり言ってキツそうな、無口なイメージのほうが大きくなってきた。
でも、後の話では、見た目は別段問題なく、可愛い・・・らしい・・・が・・・
本当に近寄れないような気がしてならないまま、今日はとりあえずここに泊めてもらった。
「今日ね、また新しく、男の子が来たの」
「・・・そう・・・」
「レースやってたんだって。お姉ちゃんと一緒だね」
「・・・・・」
薄暗い部屋でふたつ、毛布に包まった影が、床に置かれたランプに照らされ、その床の上を伸びている。
ふたりの頭上に浮かぶポヨのうち一方が、もう一方によりそうようにして。
「お姉ちゃん、せっかくだから、明日外に行って走りに行こうよ・・・」
「─何故?何の為?」
「私もお姉ちゃんも、本当はそうしたいからだよ─」
「知ったような口を利かないで。」
厳しい眼をした白いチャオは、うつむき加減にコップの中の水をすすった。
それにあわせて、うす黄色く照らされている部分と、暗がりの部分とが動く。
湯気はたっているのに、味はしない。
「─いいわ、私だけでいってくる」
「・・・止めなさい・・・」
「─どうして?」
チャオは、上を向いてふぅっと息を吐き、そのまま何も見ないような視線で、下を向いた。
「─分かるでしょう、何故かなんて─」