<2>
Final dash <2>
「なぁ、Flia─」
「ちょっと、最近あのコーチ、厳しすぎよ」
練習場から、ばらばらにチャオ達が帰っていくのが、日没時の日に照らされていた。
俺らも、二階建ての寮に戻るところだったが、Trackはどこかに行ってしまったようだった。
「だから、Fl─」
「人間とチャオでは体のつくりが違うんだから」
そうやってFliaがぶつぶつ文句を言うのも、日常茶判事。
もうそろそろ、チャオレース学校の風物詩と呼ばれ始めてもいい頃だと思う。
別に俺は普段聞き流しているのだけれど、話したいことがあるときには困る。聞いてくれない。
「Fliaってば─」
今日も長々と、ただひとりで愚痴をこぼし続けて、俺が何度呼びかけても、
「こっちは液体なのに。もっとカオスドライブをくれないと─ん?何か言った?」
と、やっと10回目ほどで気がついてくれるぐらい。
そこまで愚痴のネタがあるというのも、誉めるにも誉められない。
「さっきからずっと言ってる。あのさ─あそこ」
俺はカオスドライブの倉庫のほうを指差した。
さっきから、隣の部屋のピュアチャオが、わずかにあいたドアの隙間から、何か覗き込んでいる。
「何してるのかしら」
「怪しいな・・・」
「でも、あの子、いい子よ。疑り深いわよ、Galeって」
「中に何かあるんじゃねーのか?」
「カオスドライブしかないわよ」
「─そうだな」
面倒ごとには首を突っ込みたくない。
それもあって、ちょっと腑に落ちないが、そのまま寮へ向かうことにした。
でも、何かどこかに忘れてきてしまったような気がしてならなかった。
そんな気分も、寮についた頃には忘れていたのだけれど・・・
─何を・・・・?─
普段、勝手にコーチ以外の─つまり、生徒のチャオ達が入っては、いけないところ─カオスドライブ倉庫。
小さな倉庫だが、このチャオレース学校のカオスドライブ、全部がしまいこまれている。
勿論、Trackも、例外ではないはずなのに、僕がすきまから覗き込んだのは、何かごそごそと倉庫の箱をあさっている、隣の部屋の先輩の姿だった。
─・・・コーチから、何か頼まれたんだよね。鍵だってかかってたんだから、許可なしに入れないさ。
こんなところで倉庫なんか覗き込んでたら、僕だって怪しまれる─
よく分からないが・・・とにかく、俺は学校のオフィスの椅子に座っていた。
昨日の担当のコーチと、机ごしに。
学校についてすぐ、ひっぱられてつれてこられて・・・
とにかく、この剣幕から察して、ものすごーく叱りたいことがあるらしい。チャオの俺にもわかる。
ポヨが逃げろと悲鳴を上げているが、形を変えないようには努力してみる。
このコーチ、学校で一番怖いことで有名だった。
「えー・・・っと・・・・何か御用で・・・・?」
そういう縮こまった態度が、余計に反感を買ったらしい。
ギロリと思いっきり睨まれる。爆発寸前だ。
この部屋に二人っきりで、よかったような、よくないような・・・・
「さてさてさて・・・・昨日ちょいと倉庫荒らしがありましてね・・・ほら、カオスドライブ倉庫」
「それで・・・・」
「で、倉庫の中で見つかったものでね・・・コレ、なーんだ♪」
その普段とは違った快活な口調が恐ろしい─コーチの手にあるのは、思いっきり俺の学生証だった。
「そ・・・それ・・・いつのまに・・・」
どこかで落としたらしい。昨日、何か忘れた気がしたのは、このせいだった様だ。
でも、勿論、倉庫なんかに行っていないはずなのに・・・
「カオスドライブが各色50個ほど無くなって・・・そこにキミの学生証・・・もうキャプチャはしたのかね?」
「そんな─俺、何もしていません!!」
一段とコーチと俺の目の間が近くなる。
世にも恐ろしい、不吉な笑みを浮かべて、俺に顔を近づけた。
それが水の精霊にすることじゃ無いよな・・・
「証拠は?アリバイは?」
「・・・Fliaに聞けば・・・」