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Final dash <1>

<─ところでTrackさん、lunatic runでも有名ですよね。あれは確か6歳のときに完成したものだとお聞きしましたが─>

「すごいなぁ、Trackって」
「そうかぁ?」
「だって、lunatic runって、スキル4000並のスピードがあるのよ」
「つまり、ツヤツヤソニックチャオがlunatic runをすれば、もっと速いわけだろ」
「もぅ、Galeったら、いつもそうなんだから」
「Fliaだって、あいつにはまりすぎだ」
「もぅ」

そういうと、Fliaはチャンネルを手にとってテレビの電源を消すなり、ふくれっつらでリビングを出て行ってしまった。
廊下を歩き、階段を上がる音が耳に入ってくる。自分の部屋にいったのだろう。

「まったく・・・あんな奴のどこがいいんだか」
何気に手元にあった雑誌を手に取ってみる。さっきまでFliaがテレビを見ながら広げていた、チャオレースの雑誌。
もちろん、表紙も、開いているページも、Trackづくしだ。
ある程度、記事を目で追った。

─「チャオレース界に降り立った天才」、「レースの神の嫡子」、「幼少のころから年々倍増する実力」─
Trackを褒めまわしたような内容ばかりである。

「けっ、俺だっていつかレース雑誌に載ってやる」

間違っても、嫉妬じゃない。宣戦布告だ。
俺は雑誌をソファのあたりに放り投げ、起き上がった。


時計を見て、ため息をもらす。
午後六時─そろそろ、奴が帰ってくる─


ドアがガチャリと開く音がした。あぁ、自分の部屋に居ればよかった。リビングと玄関、近いんだよな─

「よーっ、ごきげんうるわしゅう」
「何処がだよ─」

そう、最悪の同居人、「Track」のお出ましである。

「なんだ、キミ。おーい、僕の愛しのフィ~ちゃ~ん?」
「わーいっ、トラく~ん!!」

その声と同時に、Friaも下へ降りてきた。
こいつら、お互いの間だけあだ名で呼び合っている。なんて気味の悪い関係・・・。

「お帰り、トラ君」
「ただいま─フィーちゃんはやっぱり可愛いなぁ、あんな男とは大違いだ」
と、俺に嘲る様な視線を横目で送ってくる。

「黙れ─ったく、なんでこんなやつと同じ部屋なんだか」
「そりゃこっちの台詞だ─この僕がキミみたいな低俗なチャオランナーと一緒だなんて。フィーちゃんはいいけどね」

台詞も、口調も、全てに腹が立つ。マスコミの前でだけ、いい顔しやがって─そこで、いい脅し文句を思いついた。

「そうだ、お前とFlirの仲と生活の様子、マスコミに売ってやろうかな。女の子が付きまとわなくなるぜ、そんなベタベタな性格じゃ 」
「へぇ、そうかい。じゃあ、そしたらお礼に共同倉庫のカオスドライブ盗んだことも、コーチに売ってあげるよ」

俺はそこでギクリと身を引いた。なんでそんなことまで知ってるんだ─

「だ・・・第一、お前等、ニックネームダサいし・・・」
「ひどーい。私がつけたのよ!!」
「そんなこと無いよ、フィーちゃんのネーミングセンスは最高さ。あいつにセンスが無いだけだよ」
「そりゃ、こっちの台詞だ─」

「ふぅん、僕とやるつもり?」

いつの間にやら、俺はTrackに横目で睨まれていた。

「そ・・・そんなつもりじゃねぇよ・・・」
「そう」

そういって、Trackは自分の部屋へ行ってしまった。

納得がいかない。確かにレースでの成績はいいが、それにしてもキャプチャさせてもらえる量が、Trackだけ、多すぎる。
毎日、こうして言い争いが終わって、結局俺が負けていた。

一度だけ、ケンカした事がある。
別に、今日とほとんど変わらないような言い争いの後、同じように挑発されて、ケンカを買った。
でも、あっけなく、負けてしまった─俺なんかよりスキルがずっと高くて─


あいつだって、俺と変わらない─別に、レースの名門の家の生まれ、というわけでもなかったのに。
ここで大半を占めている、アビリティのいいチャオ達と違って、俺と変わらない、いい友達だったのに。
3年前の、4月7日の日付─ここのチャオレース学校の学生証に書いてある、入学した日の日付。
あのころは、そんな奴だったとは、思えなかった。


いつから、ああなってしまったのだろう─?


2話へつづく。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第162号
ページ番号
1 / 47
この作品について
タイトル
Final dash
作者
ぺっく・ぴーす
初回掲載
週刊チャオ第162号
最終掲載
週刊チャオ第270号
連載期間
約2年27日