(終)



昨日とはうってかわって、
彼らはまたルート777を横断していた。

しかし、その時、
目の前に警察の車が張り込んでいるのが確認された。
全員こちらに銃を向けている。

男は苦笑いをして、
女の方を見た。
女はしばらく黙っていたが、やがて男の方を向いて、
軽く頷いた。


刹那、男は思いきりハンドルを切り、
道とははずれた、―崖の方に向いていた。


赤いおんぼろのスポーツカーは、
まるでオモチャのように、とどまることを知らない。

それでも男と女は笑っていた。
最初からこういうことになると思っていた、
こうなるのは知っていたのかもしれない。

「なぁ、結局、俺たち、名前を知らないよな。」

男はまるでいつもの戯言のように、女に聞いた。
女もまた笑って、彼の耳元でささやいた。
男も女にささやいた。


そして、崖から落ちる寸前、
二人は互いの名前を呼び合った後、小さな声でこういった。

「結婚しよう。」
「…うれしい、その言葉、ずっと待っていたの。」

そして、彼は「白くなった」チャオを持って、
ひゅっ、と崖の方に投げつけた。


それは、彼らの現世への遺物でもあり、
来世への餞のためのブーケでもあったのだった。


fin

このページについて
掲載号
週刊チャオ第289号
ページ番号
4 / 4
この作品について
タイトル
ESCAPE
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第289号