(終)
5
昨日とはうってかわって、
彼らはまたルート777を横断していた。
しかし、その時、
目の前に警察の車が張り込んでいるのが確認された。
全員こちらに銃を向けている。
男は苦笑いをして、
女の方を見た。
女はしばらく黙っていたが、やがて男の方を向いて、
軽く頷いた。
刹那、男は思いきりハンドルを切り、
道とははずれた、―崖の方に向いていた。
赤いおんぼろのスポーツカーは、
まるでオモチャのように、とどまることを知らない。
それでも男と女は笑っていた。
最初からこういうことになると思っていた、
こうなるのは知っていたのかもしれない。
「なぁ、結局、俺たち、名前を知らないよな。」
男はまるでいつもの戯言のように、女に聞いた。
女もまた笑って、彼の耳元でささやいた。
男も女にささやいた。
そして、崖から落ちる寸前、
二人は互いの名前を呼び合った後、小さな声でこういった。
「結婚しよう。」
「…うれしい、その言葉、ずっと待っていたの。」
そして、彼は「白くなった」チャオを持って、
ひゅっ、と崖の方に投げつけた。
それは、彼らの現世への遺物でもあり、
来世への餞のためのブーケでもあったのだった。
fin