>いよいよラスボスの拠点も近くなってきた頃、主人公はラスボスの正体が、自分と幼馴染の昔の友達であり、忽然と姿を消したチャオであることを知る。


「ハ……ハッハッハ……強くなったな、主人公――」
「配下X。戦いは決した。お前はもう再起不能だ。そこを通してもらおう。〈王座の間〉に進まなくてはならない。俺たちはお前たちのように殺しを好んでは行わない」
「ふ……殺しなんて、一瞬の産物に過ぎない。生きることで背負う苦しみに比べれば、そんなもの蚊が血を吸うことの煩わしさでしかない」
「なんだと!……貴様、その所業でどれだけ苦しんだと思っているのだ!」
「お前は旧都の……なるほど、配下Yはいつも詰めが甘くて困る」
「貴様っ――」
「待ってくれ空手家。俺はラスボスと戦う前に、お前に聞いておきたかったことがある」
「なんだと?ハハハ、この俺にお前が質問をするとは!……面白い、言ってみろ」
「お前は、――ラスボスは、なぜ、このような殺戮を行う?地位的理由であれば、ラスボスは敬われる存在を失う。経済的理由であれば、経済など存在しなくなる。人を殺し続けることに、意味などないのではないか、少なくとも、人として、生きている限りは――」
「……そうか。そうだな。フードで覆われているから、俺たちの存在の正体などに気が付かないわけだ」
 ――バッ!
「!お前は、その姿、いったいなんだ!」
「CHAO〈チャオ〉。人間の体細胞遺伝子を組み替えることで達成される、人間個体として最大ポテンシャルを有する進化形態。もっとも、完全系は、ラスボス様。俺たちはそのコピー、MACHINERY-CHAO〈オモチャオ〉に過ぎないのだが」
「どういうことだ、その形に進化することと、人を殺し続けることに、何の意味がある!」
「……分からないか。まぁ、分からないだろうな。君が過去に言った言葉を訂正していない限りは」
「なんだと」
「見せてやるよ、その映像を」
 ――カッ!
「なんだ、この光は、まぶ、しい……!」
「主人公クン、光の中に消えて――主人公クン!」
――さあ、主人公。見るがいい、キミが与えた、一握りの、そして恒久の絶望を。

「しゅじんこー」
「しゅじんこーくん」
「なんだよ、お前ら、くっついてくんなよ。おれはお花じゃなくて、トモダチのとこにいくんだよー」
「えー、またー? あのこ、へんな子だし、きらいじゃないけど……いっしょにあそぶのはヤだよー」
「それに、しゅじんこークンは、わたしたちと、いっしょー!」
「ねぇ、そうりょちゃん、いっそのことつかまえちゃって、お花畑まで連れて行こうよ!」
「そうだね、それがいいよ、おさななじみちゃん!」
「ちょっ、まっ……えいっ、にげるがかちだー!」
「あ、まてー」
「まってよー!」

「ふう。にげきれた」
「……しゅじんこう」
「おう、トモダチ、きょうも来たぜ。ろぼっとたくさんうごいてるな!あいかわらず、すっげーよ、おまえ!」
「えへへ……、そうかな、そういってくれるとうれしいな、うん。」
「ああ、今日は何作ってるんだー? へー、かわいいなぁ」
「そうでしょ。〈おもちゃお〉っていうの。ぼくが新しく作った、ロボットなんだよ、うん」
「うごくのか」
「うん、もちろん」
「すげー、うごかしてみせてよ――おー、すげーすげー、かわいいし、かっこいいし、さいこうだな! おれ、これ大好きだよ!」
「大好き。……大好きだって、言ってくれるの、しゅじんこう、きみは、この子を」
「ああ、もちろんさ!」
「えへへ、うん。そうか、ぼくは……うれしいな」
「なあ、こっちのろぼっとも、うごかしてみていいか?」
「うん、いいよ!」

「……あ、そろそろゆうがただ。もどらないと」
「しゅじんこうくん」
「お、なんだ、きゅうにおれのうしろにたって」
「ちゅー、していい?」
「は、おまえ……なにいってんだよ。たしかに、おまえはすげーし、そんけーしてるけど、そういうのはすきなおんなのことするんだよ」
「すきじゃないの? ぼくのこと、しゅじんこうは……」
「すきだよ。でも、おまえ――」

「――おとこのこじゃん」

「……だから、ちゅーできないの?」
「だって、しかたないだろ。みんな、そういうよ。おとこのこどうしでちゅーなんてできないって」
「みんな?」
「ああ、――せかいじゅうの、みんなが、きっとそういうよ」
「……そう。うん、じゃぁ、ぼくらふたりきりのせかいだったら?」
「どうだろ、もしかしたら、ちゅーしてもいいかもな」
「……そう。なら、しゅじんこう、もし、ぼくらがおとこのことか、おんなのことか、そんなこと関係無くなれば、ぼくらはちゅーできるのかな」
「そうかもな。そうなったら、のはなしだけど」
「ふぅん――」
「あ、ほんとにくらくなってきちゃう、じゃあな、トモダチ、またな!」
「――うん、ばいばい」

「――俺は、まさか。あの時のあいつが、ラスボスだと……!?」
「フフフ。人というのはすごいな。その短い命でどこまでも探求していくことができる。いい方向にも、そして、悪い方向にも」
「確かに、あの日を境に彼を見ることは二度となくなっていた。どこか遠いところに何も言わずに引っ越していったのかと思ったが――」
「旅はいつだって目的があってこそ始まるものだ。キミみたいに、与えられることを望み、それをそのまま自分自身の理由とする人間もいれば、幼いころから譲れぬ何かを抱えて、誰も行ったことがない世界へと足を踏み入れる者もいるということ……だ、な……」
「……おい。おい、配下X! 目を閉じるな! おまえにまだ聞きたいことが――」
「フッ……無駄……さ、俺のエネルギーはもうじき切れる。再生はきかない……使い捨ての人形でしかないのだ。……サヨナラだ、主人公。お前たちの、世界に散らばる人々の存在は、本当に――本当に羨ましく見ていたよ」
「配下X、配下X!!」
「――本当は、俺も……。……」


>ラスボスのことを幼馴染に打ち明けられぬまま、とうとう主人公達はラスボスであるチャオと対面する。


「……」
「主人公。君は配下Xと最後にどんな会話を交わしたんだ。今のお前の表情が、はた目から見ていたたまれないくらい苦しそうだ」
「主人公」
「主人公クン」
「……、俺は。俺は、何の目的もなく生きることを避けようと、王が出した無茶な旅を受け入れ、今こうして達成される寸前にまでいる。その中で、俺はいかにその決断から自分勝手なモノかを思い知らされ、それでも支えられ、助けられて、ここまで来た」
「主人公。それは私もだよ。私はただ、主人公を助けたいって思いだけでここに来た」
「主人公クン。私も、幼馴染さんと同じです。ただ、祈るだけではいられなかったんです」
「主人公、僕らの中で確実な目的を持っている人間なんて、そういない。そういった人たちが交わって、初めて目的が生まれて、方向性が生まれるんだよ。そうだろう」
「……。みんなの言葉は、僕を絶望から何度となく救い、そして、僕を強くしてくれたね。おかげで僕は、本当に強くなったよ。本当は、みんなで戦うことで最大の強さを発揮できるのかもしれない」
「主人公クン?」
「でも、すまない、俺はっ!!」
「!!呪縛魔法……!」
「主人公……、クンッ」
「どういうことだ!主人公!離せ!お前はいったい何を考えている!おい!」

「――ありがとう。最後は、俺がなんとかしなくちゃいけないんだ」

「空が青い、風が心地よい……ラスボスの塔の最上階は屋根が崩れ吹き抜けた場所にあったのか――、なぁ、トモダチ。お前はいったいどうしたんだ」
「――しゅじんこう」
「その体は……、CHAOと言ったっけな。見れば見るほど、愛くるしい小さな動物のようだ」
「ふふっ、そういってくれると、嬉しいな。うん」
「でも、その正体は――殺戮兵器の中枢。オリジナル」
「そうかもしれないね」
「どうして、そんな姿に。そして、どうして、こんなことをしでかした」
「この姿は、人間の完成形だからだ。男も女も関係なく、生殖を行えるし、人間よりもずっと高い身体能力を備えている」
「おとこのこは……嫌いか」
「おとこのこであるキミは好きだけど、おとこのこである僕は嫌いだったよ。うん」
「殺戮は……好きか」
「人を殺すのは好きじゃないよ。でも、キミと二人きりの世界は好きだよ。うん」
「お前の配下X、Y、いろいろな敵は、俺自身も殺そうとしたが」
「キミを殺そうとしたわけじゃないよ。キミの仲間も含め、世界中の人をみんな殺そうとしただけだよ。キミを殺そうとすれば、キミの強い仲間は体を投げ出して、か弱いキミを助けようとするから」
「――ッ。俺は、お前を倒す、そして――」
「……ま、いいんだよ。この世界のことは、もういいんだ。うん。だって、ついさっき、やっと完成したんだ」
「俺は一人で、お前を――」
 ――カッ!
「また、この光――!!」
「キミは一人で来てくれたね。僕もキミとは二人になりたかった。連れて行ってあげるよ、CHAOの万能な能力で作られた〈仮想の街〉へ。誰も邪魔できない、二人きりの世界。君と僕は永久に二人で暮らすんだ」
「なんだと、トモダチ――ッ」
「さぁ、行こう。悠久の世界へ。そして、楽園へ」

   …   …   …

「ねぇ、しゅじんこう。僕らはいったい、どれだけ歩けばいいのだろう」
「さぁ。この永遠の砂浜と浅瀬だけの世界に、定住できるところはあるのだろうか」
「分からないよ。でも僕は幸せだよ、キミと一緒に手をつなげて歩くことができる。好きな時にちゅーできるんだ」
「俺も、もしかすると、幸せなのかもしれない。昔はただのおんなのこみたいなおとこのこだと思っていたけど、大人になっても、お前は可愛いよ。女の子よりかわいい男の子なお前と一緒に手をつなげて、ちゅーできるんだ」
「フフ」「アハハ……」

 ――主人公!

「……っ?」
「どうしたんだい、しゅじんこう。一瞬、嫌な顔をしたけれど」
「いや。何でもない。少し耳鳴りがしただけだ」
「そうなの。それなら、僕はいいんだけど……。うん」

 ――主人公クン!

「……しゅじんこう。顔色が戻らないよ。耳鳴りがひどいのかい」
「違う――違うんだよ、トモダチ、お前が心配することは……」

 ――主人公。

「……くっ」
「しゅじんこう! どうしたんだい、しゅじんこう」

 ――私は、主人公を待っているよ。
 ――主人公クンがラスボスと何の因縁があるかは知らないです。けど、私は会いたい。あなたにもう一度会いたいです。
 ――主人公。もう話すこともない。戻ってこい!君がどこに消えたかは知らないが、僕らが君を求め、君が僕らを求めれば、声は必ず届くはずだ!

「俺は――ッ」
「しゅじん、こう? ――なっ! これは、呪縛魔法、だと?」
「……トモダチ。お前は確かにすごかった、俺の子供時代最も尊敬した人だったし、最も印象に残っていた人だった」
「くっ、力が強い、僕にほどけない呪縛なんて」
「俺は今想いを新たに、一つに振り絞った。もし君が俺のその想いを超えられるなら、易々と解くことができるだろう」
「……しゅじん、こう」
「お前は、俺に一度でも、素直に思いをぶつけたことがあるか。たとえ俺に嫌われようという覚悟をもって、お前は俺にその好意を伝えたことがあるか」
「それ、は」
「はじめ、俺はそれでもお前の声に耳を傾けられなかったことを公開した。惨事を起こした一端として、責任を持って、お前と二人殻に閉じこもり、世界を守ろうとした。けれど、それは違うと気づいたよ」
「しゅじん、こう、やめて、行かないで……」
「人は伝えなければ、人に想いは届かない。たとえ苦しい道のりを歩んだとしても、傷つき、傷つけたとしても、素直に等身大の自分をぶつけていかなければ、想いなんて届かないんだ」
「……」
「そして、俺は聞こえるんだよ。みんなの声が――」
「僕、は……ぁ……」
「――さよなら、トモダチ。お前はこの悠久の世界で一人、自分自身のやったことを回顧しながら生きていくんだ。いつか、その間違いに気づけば、解放されるよ。この世界を縛っているのは、お前自身なのだから……」

 ――カッ!


>そして――


「……ん、ううん……」
「主人公!」
「ここは……空が青い。固い地べたを感じる。俺は、戻って、来れたのか」
「ああ、主人公。戻ってこれたぞ。ここは、僕らの世界だ」
「主人公クン!」
「あー、僧侶ちゃん、どさくさに紛れて主人公に抱きついて」
「うー、――あ、僧侶ちゃん、当たってる」
「わざとですよー」
「ちょっと、僧侶!あんた、堂々と胸押し付けているんじゃないよ!」
「そんなこと言うなら、幼馴染さんも抱き着いてみればいいじゃないですか。……当てるものがあるなら」
「うっ」「……うっ」
「あれ、流れ弾? どうして、空手家クンが私の言葉で傷ついているんですか?」
「あー、いや、なんでもないんだ。うん、なんでもない」
「もう、当てるものがなくてもいいもん! 主人公に抱きついちゃえ!」
「お、おい、幼馴染――んっ」
「んっ、ぷはっ。お、おさななじ、み……?」
「あー!! 幼馴染さん、なんてことを!!」
「当てられないなら、別のものを先に奪ってやれってやつですよ」
「うー、卑怯です、私もちゅーしますー!!」
「おい、やめろ、やめ――んっ」

「ハハ、世界は、平和だな……」


~終~

このページについて
掲載日
2013年12月31日
ページ番号
2 / 3
この作品について
タイトル
絵無しマンガ物語 ~ボウケン~
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
2013年12月31日