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>ある日、主人公は偉い人に適当な理由を言われてラスボスを倒す旅に出ることになる。心配する異性の幼馴染も一緒についてくることになり、二人で旅に出る。
「というわけで、主人公、ラスボスを倒してきてくれたまえ」
「はい分かりました、王様」
「主人公クン、私も行くわ。あなたのことが心配なの」
「お前はだめだ。これから俺が通る旅路は、常に死と隣り合わせになるだろう」
「……そんなこと分かってる。でも、だからと言って主人公を一人で街から送り出すことなんてできない!私にはできないよっ!」
「……。分かった。幼馴染!一緒に行こう」
「ありがとう、主人公!」
>途中に寄った町でラスボスの配下による大量虐殺が起こる。どうにかして問題を解決した主人公達の仲間に加わりたいという生き残りを連れ、再び旅に出る。
「何だこれは!あんなに穏やかだった〈初めての街〉が燃えている……そして――見ていることすらできない。ひどい、ひどい有様だ」
「信じられない……誰がこんなことを」
「ハッハー、俺だ!」
「お前は……配下X!貴様!」
「ふん、今のお前に用はない……この燃える街を眺めながら、ラスボス様の偉大さにとくと畏敬の念を抱くがよい!ハッハー!」
「くそぉ……行ってしまった」
「許せないわ……」
「主人公さん……ですか?」
「お、お前は、僧侶ちゃんじゃないか!この街で暮らしていたのか、怪我は!?」
「大丈夫です。それより、主人公さん、私は僧侶としてこの街の方々の手当てをしていましたが、聞くところによると、ラスボスは世界のあらゆるところで同じような行為を繰り返しているということです!」
「……俺の父が命を賭して倒したラスボスが、またもこの世界を闇に包もうとするとは……くっ!」
「――主人公さん、私も行きます」
「お、来てくれるのか僧侶ちゃん!頼もしいよ、ぜひ一緒にラスボスを倒しに行こう!」
「ええ!」
「むぅ、何よ。私の時は、こんな風に頼ってくれなかったくせに――」
>ある町で幼馴染と仲間が喧嘩をしてしまい、別れてしまう。主人公は自分よりも若い第三者の協力をもらって二人を探す。
「あなたが適当な地図を描くから、ラスボスの配下の動きに対応できなくて、〈海の近くの街〉がより甚大な被害をこうむってしまったんじゃない!」
「……何よ!私は足りない時間で必死にできることをやったわ!そこまで責めなくていいんじゃない!」
「あなた、主人公クンの幼馴染か知らないけれど、役にも立てないのにどうして主人公クンと一緒に旅をしようとするの?それで助けになっているつもり?」
「おい、僧侶ちゃん、それ以上言うな――」
「主人公クンも、幼馴染さんのこと味方するの?……結局、役に立とうって努力じゃなくて、昔からの関係が優先なのね!こんな人――」
「僧侶ちゃん!!」
「――幼馴染さんなんて、いなければよかったのに」
「!!」
「おい、幼馴染!まだこの街は危険だ、幼馴染!」
「いや、助けて!……主人公!」
「えへへ、キミの恋人さんかい?でもここには俺たち以外はいないさ。財宝だけ手に入れりゃあよかったが、こいつはいい上物だ。おい、お前ら、抑えとけ!」
「いや、助けてっ、助けてー!!」
「助けが呼ばれたような気がしたので!」
「何?……ぐはっ」「ぐっ」「うっ」「かはっ」
「……え?」
「大丈夫、お姉ちゃん。僕、裏の山から師匠と一緒に救護活動をしている空手家なんだ。まったく、こんなに鍛えているなら別のことに使えばいいのに……女の敵!」
「か、空手家くん?倒れている人に乱暴しちゃだめよ?」
「……フフ、さっきまでピンチだったのに、優しいんだね」
「ああ、それは……」
「僕は――あなたみたいな優しいお姉さんを助けるために強くなろうって決めたんだ。いなくなっちゃったお母さんも、僕の尊敬する師匠も、そうであってほしいって僕に言ったから――ねぇ、名前はなんていうの」
「幼馴染よ」
「幼馴染さん、あなたの身なりは旅人のそれだね。どこに仲間がいるの?」
「私は……へへ、一人」
「えっ」
「メンバーさ、首にされちゃったから」
「そんな……。僕は大人のことは知らないけど、こんな危険な世界を旅するチームは、絆が強いんじゃないの?ちょっと喧嘩したくらいで、壊れちゃわないよ――」
「そうかもね。うん、そう、私はそう信じてる。……でも、私は、迷惑をかけちゃったみんんなのところに、戻れないよ」
「幼馴染さん……」
「ごめんね、子供の男の子に、こんなこと言う私、情けないよね?」
「ううん、気にしないで。幼馴染さん、僕の師匠を紹介するよ。そこでしばらく一緒に救護活動をしよう。それで、何か見つかるまでいればいいと思う。師匠にそういうからさ!」
「空手家くん……、ありがとう」
>幼馴染か仲間のどちらかがラスボスの配下に襲われる。その窮地を幼馴染or仲間と第三者が助け、仲間たちは手を取り合う。
「幼馴染さんは、いったいどこに行ってしまったのかしら……。私が、私が追い出してしまったがために、幼馴染さんは、もしかすると、もう……」
「悲観するな僧侶ちゃん。僕がチームをまとめられなかったからだ」
「主人公クン。違うの、ごめんなさい。私――本当は不安なの」
「僧侶ちゃん……」
「いつかみんなで子供時代を過ごしてたのに、私だけが遠い街に行ってしまって、主人公クンや幼馴染さんみたいに、同じ時を刻んでこれなかったから」
「僧侶ちゃん……」
「それに、私はきっと嫉妬しているんだと思う。私は知っているの。小さい時から、あなたの気持ちも、そして、私自身の気持ちも」
「僧侶ちゃん、それは――」
「――夜な夜な、そんな悠長に過ごしていていいと思っていたのかい?」
「お前は配下Y!……くそっ!いつの間に」
「いつの間に?馬鹿だなキミたちは。こんな誰もいない辺境の地で炎を炊いてキャンプしているうえ、当の旅人さんたちも自分のことで思い悩み、付け入る隙はいくらでもあったのさ。特にそこの男の子君。誰よりもチームを守るべきキミがそうだから、さ」
「……俺が」
「そう。でも大丈夫、弱いのは君だけじゃない。人間みんな弱いのさ。……そう。人は偉大なる悠久の力に包まれたラスボス様の支配下に下るべきなのだ!そして、それを邪魔するものは私が殺すのさ!」
「そんなこと――ぐっ、動けないだと」
「主人公クン!」
「残念だが、主人公。君はもう戦えない。そういう魔法を施したからな。そこの女の子は……ふふ、僕の好みだから逃がしてあげるよ。どうせ君一人いても、世界が変わることはないだろうさ」
「……僧侶ちゃん、逃げろ!!」
「主人公クン!?」
「あいつが言っていることはどこまで信じれるか分からないが、少なくともまずは俺を殺すだろう。だから、俺が絶えている間に、逃げるんだ」
「嫌!私は主人公クンを置いていくことなんて――」
「……フフ、逃げるのも、いいけどね。でもそれは残念だ、僧侶ちゃん。だって主人公クンが切り刻まれるショーを観戦することができないんだから」
「!!」「どうする、僧侶ちゃん」「……戦う」「僧侶ちゃん!!ダメだ!!」
「主人公クン、私は――戦います!私一人で……主人公クンを守って見せる!!」
「ぐぅぅ……、かはっ」
「僧侶ちゃん!!」
「はぁはぁ……私は、大丈夫。私が、あなたのことを、護るの」
「ダメだ、もう逃げろ、いいんだ、もういいんだ、世界を守れなくてもいい、チームのみんなが死ぬ姿なんて俺は見たくないんだ……!」
「ううん、主人公クン、私は死なないよ。私は、きっと勝つ、から、……。ぁ……」
―バタッ。
「僧侶ちゃん!!僧侶ちゃん!!」
「もう息が絶えたのかい。やっぱり非戦闘要員は弱いね。手ごたえがない」
「貴様!くそっ、クソォ!!」
「アハハ、キミは覚醒できるわけでもない。何のルーツも、何のポテンシャルもない。ただの旅人さ。そう叫んでうまくいくことがあるならさぞ都合のいいストーリーになるだろうが。残念だね、ラスボス様はそれを許しはしないよ」
「く……クソォォ!!!」
「最後まで抗ったことは褒めてあげよう……、一瞬で、死ね――」
「ふっ、ワシの目に留まったからには、そうはさせぬぞ!」
「――何!?私の攻撃を、素手で止めただと……?」
「幼馴染、至急そこで倒れている子の手当てを」
「はいっ、師匠さん!」
「空手家!お前は、そこで呪縛魔法にとらわれた勇者君を救出だ!」
「はいっ。……そりゃっ」
「んっ。……ま、魔法が解けた。ありがとう、キミは」
「空手家さ。あなたが主人公って人か。確かに、頼りなさそうな顔してるね」
「俺の名前をどうして――お、幼馴染!幼馴染、お前……!」
「ふ、ごめんなさい主人公。あなたが、そして――僧侶さんが、こんなピンチになってたのに駆けつけられなくて!」
「すまない。俺は、僧侶ちゃんがボロボロにされるのを前に、何も」
「落ち込まないで、今は目の前の敵を倒さなきゃ。行くよ!――主人公!」
「ああ!」
「ちっ、ただの空手ではない……魔法を手に宿す格闘技の一つか。面倒くさい人間が押し寄せてきやがって……」
「時にお前、ラスボスという男が一人世界を統治することを信仰するものか」
「ああそうだ。だったらどうした?」
「ワシはこう思う。人間は実に様々な考えを宿し、行動を起こし、失敗や成功を積み重ね、それぞれが世界で羽ばたく人間になっていくのだと。ワシは色々な子供らの師匠として世界を渡り歩き、気づいた。一人の人が世界を統べるのではなく、それぞれの人が交わり、感情をぶつけあってこそ、世界は初めて成り立つのだと!」
「……小賢しい!ラスボス様の行動を阻害する人間は何人あっても私が倒す、行くぞっ――」
「……くそ、クソォ、俺が、押されるなど、ありえんっ。まずは主人公、再びお前を呪縛に――」
「させないっ」
「何っ!?」
「幼馴染!……俺はお前を守らないといけなかったのに」
「気にしないで、主人公。あなたが私を守るように、私もあなたを守りたいの。だから、これは私の意志――私と、あなた……一緒にラスボスを倒そう!」
「幼馴染――」
「それで、いつか平和な世界になったら、また一緒に暮らそう? 主人公――」
「おおおおお、貴様ら、これで勝ったと思うなよぉ!!!」
「なんだとッ!?」
「これは、強烈な闇の渦!自爆覚悟で俺たちを闇に飲み込もうとしているのか!――あ、危ない、幼馴染!」
「主人公……っ」
「幼馴染―!!」
「くそっ、ワシも間に合わんっ」
――ガシッ。
「え?そ、僧侶ちゃん!!」
「はぁはぁ、……っく、幼馴染さん……っ。私は……あなたが憎い。主人公クンを取っていくあなたが……とっても憎い」
「……」
「でも、あなたは私の大事なかつての親友で、今、誰よりも人のことを気遣い助けてくれる、大事な、そして大切なチームの一員ですから!」
「僧侶ちゃん――」
「堂々と戦います。陰気なことはもうしません。それで、あなたと私はうまくやっていける!あなただけにあんな下衆な男のせいで消えてしまうことがあっちゃいけない、いけないんです!!!」
「よし、僧侶ちゃん、俺も手伝う!幼馴染、俺たちの手を絶対に離すなよ!」
「幼馴染さんっ」
「幼馴染!!」
一緒に、歩いて行こう。
「――うん!!」
「くそっ、クソォおおおおお……!!! わがラスボス様は!!! 必ず世界を統治し!!! そして、この世界をお救いになるのだあああああああ……」
「……これで、目の前の悪は去ったか。ワシは、これから世界をまたにかけ戦う戦士たちを育てるために、また〈海の見える街〉に戻らなければならないが――空手家!幼馴染!」
「はいっ」「はいっ」
「お前たちは卒業だ。これからは、好きにやるがよい」
「好きに……?師匠、それは――」
「たわけ!分からぬか空手家よ。お前も彼らのメンバーとして、ラスボスを倒しに行くのだ!お前は大人になり、様々な世界を旅するだろうが、まずは仲間と協力し合い、進んでいく術を身につけろ。……このチームは、きっと強くなるぞ」
「師匠……」
「さらばだ、空手家、幼馴染」
「あ、ありがとうございました!!」「ありがとうございました。……師匠」
「……ふぅ、時間が取れて、ようやく自己治癒を行うことができました。幼馴染さんと、師匠のおじいさん……彼女は、強くなったんですね」
「ああ、だから――」
「え?」
「いや、なんでもない。……ありがとう、僧侶ちゃん。君がいたから、僕はこうやって再び立つことができた。感謝してもしきれない」
「いいんです!それは、私が望んだことですから」
「そう言ってくれるんだな。強いな、僧侶ちゃん、幼馴染も……。……」
>前回の騒動から自分に自信を失くす主人公は、仲間から励まされ再び立ち上がる。(誰からでもいいし、何人でもいい)
「……どうしたんだい、主人公?〈風の吹く街〉は、無事、破壊される前に僕らが敵を倒したおかげでこんなにも穏やかな風が吹いているよ。そんな中で主役の主人公がポケッとして何やってるんだ?」
「空手家クンか……。俺は考えていたんだ。自分の、このチームに対する貢献を」
「貢献?」
「キミは身体能力を駆使しながらアタッカーとして敵をなぎ倒し、幼馴染はそんなキミの動きをうまく見抜いてコンビネーションとフォローに長けた攻撃をして、僧侶ちゃんはバックアップとして完璧だ。俺は――中途半端だ。攻撃も強くないし、強い魔法が使えるわけでもない、回復はもっぱら俺自身も僧侶ちゃん任せだ、俺ができることはせいぜい僧侶ちゃんが届かぬ範囲で薬草をキミたちに手渡すことくらいだ」
「……。それで、主人公は役に立っていないんじゃないんかって?」
「ああ、恥ずかしながら、俺は、――」
「――僕は、主人公はたった今、自分で主人公自身の貢献を言ってくれたと思ったんだけど」
「どういうことだ」
「確かに、以前、配下Yの時は主人公がメンバーの機微を見抜けず、おまけに立ち回りも遅くて、そのせいで被害は大きくなった。それは本当だよ」
「……」
「でも、さ。僕は思う。前あった戦闘で配下レベルでない敵に苦戦したのは僕が時間を急いで飛び込んだから。以前宿がいっぱいで野宿したのは買い物に夢中な幼馴染さんに付き合わされたから。夜中奇襲で初期対応が遅れたのは僧侶さんが宗教上の理由と言って、教会での祈りを欠かそうとしなかったから。……これは全部、同じミスで、失敗だよ」
「そんな、でも、比較してみたら」
「比較なんてすることじゃない!……そうじゃないんだよ。僕が言いたいのはただ一つ。僕らは4人全員生きてるんだ。それだけでいいんだ。敵陣を突破し、配下を倒し、ラスボスを倒した後に、僕ら全員が元気でいられればそれでいいんだよ。その道中の失敗は、誰も責めやしないんだ」
「空手家くん……」
「誰かが失敗しても、誰かがフォローするから、結果としてチームとして前に進めるんだ。それが、チームとして人が集う唯一無二の理由じゃないのかい?だから――」
「――ありがとう、空手家くん。俺が間違っていた」
「主人公……」
「……空手家クン、いや、空手家〈さん〉。キミもまた、そんな苦しい時に声をかけてくれた人がいたのかい」
「!主人公、いつの間に気づいていたんだい」
「20年前、ラスボスの急襲で壊滅的被害を受けた〈旧都〉、そしてその領主であった王族は皆殺しにあった。が、実はその一人娘が行方不明だという話をそこらの店で聞いて、写真も見せてもらったんだ。ちょうど髪を伸ばして、もう少し幼くなった、キミの顔が」
「……アハハ、幼馴染さんはずっと僕を年下の男の子だと思っているけどね」
「幼馴染は素直な性格なんだよ」
「フフ、僕は確かにその通り、旧都の王族の末裔さ。数年は森をさまよって過ごしたんだ。その間、助けてくれたのはエルフだった。人間と距離を置き、民族性を非常に大事にする彼らなのに、よほど見たくれがひどかったんだろう」
「エルフ、そうか、そんな生活をしてきたのか」
「生活は彼らに合わせて、そのせいか背もそんなに伸びなくて、代わりに今でも通用する抜群の身体能力と、少しの魔法を覚えたんだ。それさえあれば、少しは無理できる。主人公のあの鎖を千切るくらいには」
「あの時は、ありがとな」
「いいのさ。……そして、そのあと、師匠に会って、彼とともに旅をしてきた。彼は昔冒険家でさ、エルフの毒矢で刺されようとしたところを、僕が助けたんだよ」
「お手柄だ」
「ハハ。さて、そういうわけで僕は御年23歳でキミたちよりお姉さんだ。分別が聞く子とどもとか言われると少し腹立たしいけど、これはこれで有利に働く場面も多いし、重宝させてもらってるよ。少年空手家の地位をね」
「そうか。もしよければいくつか技を教えてもらいたいものだ」
「アハハ、そのうち、以前配下Yに受けた魔法くらいは教えてあげられるよ。単純だけど、精錬すればするほど、強いものになるから、いずれ役に立つ時が来るさ」
「そうなのか。今日からぜひ、ご教授願う」
「厳しいよ」
「構わないさ」
「よし、なら、早速――ん?」
「主人公―!なにしてるのー?」
「主人公さーん。ここにいたんですか、幼馴染さんが美味しそうなレストランを見つけたんですよ。一緒にお昼にしましょうよ!」
「幼馴染。僧侶ちゃん。……ああ、そうだな。――行こう。空手家も!」
「――ハハ。おうともさ、バクバク食って主人公の分を空にしてやる」
「アハハ、空手家クン、育ち盛りだねー!」
「フフ、さあ、行きましょう。みんなで。旅はまだまだ続くんですから!」