【4】
翌日。
僕はいつも通りチャオの教育をしている。
チャオの葬式は一般的には行われていない。
遺体が全く残らないというのが主な理由。
中にはきちんとする人もいるけれども、人間の物と比べると短い時間で終わる。
今日こそは試合を見に行こう。
そう思っていた。
突然、サイレンが鳴り響く。
チャオを教育する部屋に真理さんが駆け込んでくる。
「まだ交代の時間じゃないですよ?」
「ばか、そんな場合じゃないって」
「どうかしたんですか?」
「機械のチャオが大勢で攻め込んできた。速く逃げろ」
詳しい話を聞くと、研究所の周りを機械のチャオの軍団に囲まれてしまったらしい。
機械のチャオ達はそれぞれの武器で壁やドアを破壊し強行突破しようとしているらしい。
「でも、どうしてここだとわかったんですか?国家機密なんじゃ…」
「カオスエメラルド…かな。もしかしたら」
カオスエメラルド。それは無限の力を持つと言われている石。
世界に7つしか無いらしく、その石を見ることなく人生を終える者は圧倒的に多い。
「カオスエメラルドなんてここにあったんですか」
「うん。カオスの遺伝子と一緒に政府から送られてきたんだ」
「じゃあ、行ってきます」
「行ってきます、ってどこにだよ」
僕はとっさに思いついたことを真理さんに話す。
すると、彼女は驚いた後に呆れながら正気かと聞いてきた。
僕は頷いた。そして走り出す。
目的地は、この研究所で一番大きい部屋である実験室。
実際に行ったことは無いのだけれども、
そこでチャオにカオス遺伝子を入れたり、カオスチャオの研究をしているそうだ。
地図を見なくても道はわかる。昔からこういうことは得意だった。
初めてこの記憶力が役に立った。そう思えた。
そして、実験室のドアを開ける。
実験室には所長が一人、立っていた。
「所長、なんでここに?」
「カオスエメラルドだけでも何とかしないと。って思ってね」
「ところで所長、質問があるのですけれども」
「こんな時になんだい?」
「こんな時だからこそです。人間の体に、カオスの遺伝子を入れられますか?」
それが僕の結論。
僕が、カオスになる。
そして、僕一人で全てを終わらせる。
「まぁ、入れられる」
「じゃあ、僕の体に入れてください」
「本気で言っているのかい?」
「本気です。時間もありません。早くしてください」
「全く、世話のやける奴らだなぁ」
そう呟きながら真理さんが入ってくる。彼女はライフルを背負っていた。
「真理さん、どうしてここへ?」
「注入が完了するまで持ちこたえなきゃいけないだろ?」
「うん。カオスの遺伝子を体内に入れた後、しばらくの間寝ちゃうからね」
「ありがとうございます」
「気にするな」
僕はベッドに寝かされる。そして、所長が色々と準備を進めている。
「あ、真理さん。最後に聞きたいことがあるんですけど」
「なんだ?」
「昨日、試合に出たカオスチャオ。結果どうでした?」
「あぁ、あいつな。試合には勝った。だけど、その後死んだよ。寿命が縮まったからだろうな」
「そうですか…」
「じゃあ、カオス遺伝子を入れるよ」
「お願いします」
「最初、君と君のチャオの試合を見た時は驚いたよ。
まさか普通のチャオがあそこまで機械のチャオを戦えるとは思っていなかったからね。
だから、君を教育係として誘ったんだ。挙げ句、こんなことまでさせて…本当に身勝手ですまないね」
「いいえ、ありがとうございます」
大きな注射が、僕の腕に刺された。
そして、何かどろどろした物が体内に入っていく。
だんだん僕の意識は薄れていき、世界は真っ暗になっていった。