【3】

あれから数年が経った。
僕はとりあえずまだチャオ教育係として働いている。
育てたチャオはきっと皆カオスチャオになっている。
そして約3ヶ月という短い期間に戦って、死んだんだろう。
きっと今育ているチャオだって、今度育てるチャオだってそうなるんだろう。
そんなことを考えていたせいなのか、暗い顔をしていたらしい。
気分転換のために、真理さんと買い出しに行くことになってしまった。
きっと、ただ単に付き添いがほしかった所に丁度良い人間がいただけなのだろう。
でも、きっと悩み続けていたって仕方がないことなんだろうなぁ。
車の窓から外の景気を眺めながらそう思った。
目的地であるチャオ関係の店に看板と同じくらいの大きさの文字で何か文章が書かれていた。
「私達はカオスチャオに反対します…?」
「あー、気にするな。どこもこんな感じだから」
「え?それって…」
「みんな時間が経ちすぎて慣れちゃってね。試合のルールとかも機械のチャオに合わせるような感じで改正されちゃったし」
「そうなんですか…」
「うん。政府からもいい目で見られてないしな。もう、ただの邪魔者だよあたしらは」
もう名称が「チャオカラテ」だとか「チャオレース」なだけで、
中身は完全に機械のチャオ用に変えられ、人々もそれを認めているらしい。
僕達はそれを邪魔する悪として見られているらしい。
じゃあ、正義は何なんだろう。


僕が今育てているチャオは、他のチャオとは違う。
他のチャオは政府の人間のチャオであったり、どこからか捕獲してきた野良チャオだった。
けれどもこのチャオはどこかでこのカオスチャオのことを知り、
自らカオスチャオになりたいと言ってきたのであった。
理由は聞かなかった。でも不思議でたまらなかった。
もう、正義とは見られないのに。3ヶ月しか生きられなくなるのに。
「あと1ヶ月で僕もカオスチャオですね」
「あー、うん。そうだね」
「へへへ、夢のようだなぁ」
「なぁ…」
僕はついに聞いた。なぜそこまでカオスチャオになりたいのかと。
チャオは少し下を見ながら言った。
「実は僕、ここに来た時に余命4ヶ月って言われていたんです」
「え…」
「よく原因はわからないんですけど、生まれつき長くは生きられない体なんだそうです。
だから、ほんの少しでも長く生きていたかったんです」
もし、カオスチャオになってから3ヶ月、と固定されているのならば。
このチャオは普通より2ヶ月多く生きることができる。
カオスチャオになると極端に寿命が短くなるのだとすればこのチャオはすぐ死んでしまうだろう。
それでも賭けてみる価値はある。このチャオはそう判断した。

「だから、僕がカオスチャオになったら試合を見に来てくださいね。
誰かに僕がちゃんと生きているってことを見ていてもらいたんです」
チャオは微笑みながら言った。
その笑顔は、どこか寂しげだった。

誰か、教えてください。
僕達が生きている事も、悪ですか?


今日はあのチャオが始めて試合をする日だ。
走っている。ただ、向かっている先は試合会場じゃない。
病院から連絡があった。
チャオが白いマユに包まれ始めている、と。
間に合うかどうかわからない。
息が切れ、歩きたくなる。けれども走っている。
やがて、病院に着く。
病院では静かにした方がいいんだっけか。
いや、そんなことを考えている場合じゃない。
お願いします。間に合ってください。
そして、チャオがいるはずの病室のドアを開けた。

ベッドで寝ているはずのチャオはいなかった。
ベッドに残されていた包帯は、チャオの形をしていた。
空洞になっている部分には、さっきまでチャオがいた。
僕はその抜け殻を抱きしめる。
「死ぬ姿くらい飼い主に見せてくれよ、ばかやろー」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第206号
ページ番号
3 / 5
この作品について
タイトル
Don't try to be a hero
作者
スマッシュ
初回掲載
週刊チャオ第206号