【2】

「これが今日キャプチャーする物。キャプチャーし終わったらいつも通り体力テストをしてから練習するよ」
僕はカオスチャオ研究所のチャオ教育係となっていた。
僕は研究とは直接関係なく、ただチャオを3ヶ月の間に強く育てることを指示された。
どうしてこうなったのかはよくわからないけれども、
難しい研究に付き合わされるよりかは何百倍もいいことだろうと思うことにしている。

「うん。予定通り…いや、それ以上だね。体の変化から見ても、ノーマルタイプに進化しそうだし」
僕がそう言うと、チャオは嬉しそうに笑う。
「じゃあ、次は戦闘訓練だね。スタミナを意識して上げてないから、疲れたらすぐに言って、休むこと」
「はーい!」


僕は病院でここの所長である神路さんと会った後彼に連れられてここ、カオスチャオ研究所まで来た。
ゲームと同じカオスチャオではない。
それは不死身ではない、という事なのかもしれなかったんだけれど
それでもカオスチャオが不死身であるということを期待していたんだ。
僕のチャオはもう長くは生きられない。
死ぬのを待つことしかできない。
でも、もしも不死身にすることができれば、また一緒に歩ける日が来るかもしれない。
そう思ったんだ。

「どうやったかは知らないが、政府が『カオス』とかいう『チャオの守護神』なんて呼ばれる生物の遺伝子を入手してね」
所長はビデオテープを取り出しながら言った。
ビデオテープに貼られているラベルには「カオスチャオ」という文字。
「そいつを体内に入れたチャオの映像がこれだ」
所長はリモコンを操作し、映像を再生させた。
そこに映っていたのは、チャオカラテで機械のチャオを戦っているチャオの姿。
そのチャオは人間と同様、もしくはそれ以上のスピードで動き回り、相手の攻撃を避けていた。
「このように身体能力が恐ろしいほど上昇して機械のチャオと戦えるチャオになるんだ」
チャオは、相手の顔面を蹴り飛ばす。
威力が高すぎたようで、機械のチャオは頭だけが部品をばらまきながら吹き飛び、そのまま機能を停止させた。

「何か質問はあるかい?」
「カオスチャオは、不死身ですか?」
「死ぬよ」
所長はあっさりと答えた。
不死身である事を期待していたとはいえ、そうである可能性はきっと低い。
そう考えていたから、こういう答えが出ても仕方がない。
「3ヶ月でね。カオスの遺伝子が何らかの形で影響してるようだよ」
仕方がなかった。


「うん。昨日教えた通りにちゃんとできている。完璧だよ」
「それはこっちの専門だっての。何やってんだよお前」
背後から女性の声がする。彼女の名前は井土真理(イドマリ)。
僕と同じくチャオの教育をしているのだけれども、彼女は戦闘について教えている。
「あぁ、真理さんこんにちは。見ての通り戦闘の復習です」
「だから何で復習なんてやってんだよー」
「だって、所長の弱点は腰だとかどうでもいいことばっか教えている真理さんに任せてたらどうなるか不安じゃないですか!!」
「う、うるさいな。どうでもいいから代われ」
「え、まだ交代の時間じゃないですよ?」
「所長がお前を呼んでるんだ。とっとと行きやがれ」
「はいはい。じゃあ、お願いしますね」
僕は立ち上がり、部屋から出て行く。
「あ、くれぐれも変なことは教えないでくださいよ」
「わかってるよ!!」
僕は怒鳴る真理さんから逃げるように走っていった。

「失礼します」
所長室に入る。
所長は驚いた様子で夏目を見る。
「早いな。迷わなかったのか?」
「はい。もう覚えましたから」
まだここに来てから3日ほどしか経っていない。
何故だかわからないけれども子供の時から部屋の配置とかを覚えるのが得意で
大体の部屋へ地図を見なくても最短距離で目的地まで行ける。
あまり役に立った経験がないからそれほど便利なことだとは思っていないのだけれども。

「で、何の用でしょうか」
「あぁ、うん。君のことについて話がある」
所長はソファを指さし、「座っていいよ」と言う。
僕がソファに腰を掛けてから数秒後、所長は話を始めた。

「えーっと、今更なんだけどここは政府の施設なんだよね。まぁ、そうじゃないとカオスの遺伝子なんてのも手に入らないわけだけどね」
「まぁ、そうですよね」
「で、普通はこんな重要な事を知っちゃったら政府も自由にさせてはくれないわけで、だからこそ君はここで仕事をしているわけなんだ」
「なるほど」
「だけど実は上の方、というかここ以外の人には君のことをまだ話していないんだ。これがどういうことかわかるかい?」
「えーっと、こことはおさらばしちゃったってかまわない、ってことですかね?」
「そういうこと。まぁ、そういうわけだから選ばせてあげよう。どうしたい?」
「そうですねー…」
そう言いながらも既に答えは決まっていたんだ。
何かをしたかった。
病院で死ぬのを待つだけの自分のチャオのために。
すぐに死んでしまうカオスチャオのために。
最後の短い時間を輝かしく生きていってもらうために。
よくわからないけど、それが「正義」な気がしたから。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第206号
ページ番号
2 / 5
この作品について
タイトル
Don't try to be a hero
作者
スマッシュ
初回掲載
週刊チャオ第206号