【1】

「調子はどうだー?」
病院の個室。ベッドで寝ているチャオに話しかける。
チャオは体中に包帯が巻かれていて、本来の姿が見える部分はとても少ない。
このチャオがこんな状態になってしまった理由は、チャオカラテだ。

人間が様々なスポーツをするように、チャオも様々なことをする。
主に行われている競技は「チャオカラテ」と「チャオレース」。
ただ、表向きにはそれらがチャオのための競技と言われているだけで、
本当は外見がチャオそっくりな機械のチャオが出場チャオの大半だということは
既にほとんどの人が知っていることで、一般人の僕でさえ知っている。

なぜ、政府は何もしないのか。
そう疑問を持つ者は少なくない。
そして、自分が解決する。と英雄を気取って立ち向かう者もいる。
僕達もそうやってチャオカラテにその身を投げ込んだ。
それが、僕達にとっての「正義」だったんだ。

けれども、そこにあった現実はあまりにも残酷なもので
機械のチャオ達は既にチャオと言えるような物ではなかった。
体には武器が付けられ、相手を完全に粉砕するまで攻撃を止めることはない。
既に政府の力では止められない所まで来ていたってことが、その時やっとわかった。

「早く元気になれよー。そしたら今度こそチャオカラテで勝とう。な?」
僕の言葉にチャオはほんの少し頷く。
僕は知っている。このチャオはもう助からないことを。
もう、死ぬのを待つだけということを。
おそらくこのチャオもそのことを薄々感じている。
僕達は二人で嘘をついている。

ノックの音がして、その後すぐにドアが開かれる。
入ってきたのはスーツを身にまとった見知らぬ男。少なくともこの病院の医師ではなさそうだ。
男はチャオと僕を観察するかのようにじっくりと眺めてから言った。
「君が夏目春斗(ナツメハルト)君だね?」
「はぁ…そうですけど」
「私の名前は神路進(カミジシン)。カオスチャオ研究所の所長だ」
「カオスチャオ…って」
カオスチャオ。それはゲームの中に存在する不死身のチャオ。
ゲームと現実はイコールではないということは多くの人がわかっていることで
さらに現実には存在しない動物をキャプチャーさせなくてはいけないという条件や
不死身などといった特徴がさらに現実感を失わせていた。
だから、僕にとってはこの男の言っていることはくだらない話でしかなかった。

「その顔を見ると、カオスチャオなんて存在しないと思っているようだね」
「そりゃあ、当然でしょう」
「確かに、カオスチャオは存在しないよ」
男はニヤリと笑いながら言った。

「ゲームと同じカオスチャオは……ね」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第206号
ページ番号
1 / 5
この作品について
タイトル
Don't try to be a hero
作者
スマッシュ
初回掲載
週刊チャオ第206号