第0話 【冥界からの使者】
今までの事を振り返ってみたら・・・・
俺は思った事もすぐ言葉でいうタイプだから、手紙で伝えるなんて苦手中の苦手だ。
それでも・・・
「っと・・・・・きえるってどんな字だっけ?」
片手にペンを握り、もう片方の手に辞書を持ちながら手紙を書き進めていく自分に違和感を感じた。
頭が妙に働きいろいろな事を考え出す。
死ぬ・・・・そんな事はここに入院してから何度もその言葉を医者から浴びさせられた・・・
でも・・・死ぬっていったい何だ・・・?
死んでも俺の身体は残る・・・でも何故二度と起きる事ができなくなるんだろう?
そこに身体が存在するのに・・・足りなくなる物は、条件は何だ?
生者が死者へと変わる瞬間に何がおきるんだ?
「今は手紙を書き続けよう・・・そんな事、またあいつに聞けばいい・・・」
それから少したってから・・・
俺の体調が少しおかしくなった。
いつもならどうってことない室温なのに、嫌に寒気がする。
目蓋も変に重く、身体の力は抜けていく感じ。
それでも俺は誰にもその事を伝える事なく、手紙の完成に時間を割いた。
窓の外からは真っ赤な夕焼けが差し込んでくる。
そう、あの日と同じように・・・・
「きたか・・・・」
「あぁ・・・・有意義に過ごせる事ができたか?」
「俺にしたら・・・な」
「そうか・・・・」
そういうと奴はどこからか巨大な鎌をとりだした。
あいつの翼と同じ位の大きさの鎌。
これで俺を切り裂くってのか・・・
「準備は・・・・いいか?」
「その前に・・・・少し頼みがあるんだ・・・・」
俺は誰にも聞こえない位の声で俺の最後の望みを伝えた・・・・
「それだけだな・・・?」
俺は軽くうなずいた。
そして・・・・身体を貫いたような感触。
貫かれたと同時に俺は床へと倒れふせた。
でも・・・不思議・・・に痛・・・くね・・・ぇ や
髑髏はそっと、倒れた少年の横顔をのぞきこんだ。
「安らかに眠れ・・・」
――仕事は終了した。後は・・・
と考えつつ、机の上に置かれた紙に目を止めた。
「こいつだな・・・」
夕焼けも沈み、真っ暗な空には小さな星々と巨大な満月がちりばめられる。
とある一軒家の二階の窓
その窓際には少年が病室に飾っていた物と同じ写真がかざってある。
窓からのぞきこむと、彼女は一人机に向かっている。
読書か何かをしているのだろう。
開いた窓から例の紙を投げ込んだ。
そして投げ込んだと同時に翼で風をおこした。
「・・・あれ?」
彼女も気が付いたらしい。
――後はもう必要ないだろう・・・
彼女は床に落ちた紙を拾った。
中には見覚えのある文字・・・
「岡村君の字だ・・・」
彼女はその紙に書かれている文字を読み進めていく事によって
少しずつ顔が赤くなっていった。
「いいよ」
彼女は嬉しそうにそう呟いた。
しかし、もうこの世にはその返事を聞くはずだった人はいない・・・
ただ俺にできる事は・・・祈るだけ。
安らかに眠る彼にどうかこの声が届くようにと。
月を見上げ、髑髏はこう祈った。
「俺達に安楽な死と生を」