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preludeの鮮やかな空気がまだ残る街。
そこにはもはや昔の繁栄は残っていない。
残るのは、
人の心を蝕むdirty、人の心を造るugly、
そして、俺が飲むblack coffeeの風味。
少し前、ここはもっとひどい場所だった。
いや、何を隠そうチャオが食べ物だったのだ。
赤いチャオがどんどんどんどん釜に入れられて、
ジャムにされ、どろどろになって出てきたのだ。
………
いや、もう思い出さないでおこう。
今俺の目の前にいるのは、確かに、生きている。
black coffeeの入った小汚いカップをテーブルに置く。
ちょうど、チャオ達のいる庭からあいつが戻ってきた。
「…亜子」
亜子。俺の妻。
でも、気分はいつも恋人だった。
彼女は面白い話をたくさんしてくれる。
俺はいつも静かに笑って、それに耳を傾ける。
…しかし、今日はその話は聞けそうにない。
俺はすっと立ち上がって、タンスから一つの黒いものを取った。
銃だ。
「…もう行くの?」
「あぁ、今日は少し早く仕事に行ってくる。
遠い場所なんだ。」
亜子はいつもの黒いニットキャップを俺に手渡す。
茶色いバケット、ピンクがかったエプロン。
確かに、亜子だ。
「…大丈夫なの?」
「疑心暗鬼になるな。遠いところだからって、危険じゃ…無い。」
「ホント?」
「大丈夫」
「…信じるよ、じゃあね、…ゆー。
私は子供の世話をしないとね。」
亜子は俺を「ゆー」と呼んで、手を振った。
俺はそれでも心配そうに見る彼女を後ろに見て、家を出た。
第一貧困地区の小さな一欠片は、今日も新たなスタートを切る。
【diRty,ugly,and Black coffee】
笑うのは 泣いたりするのは 当たり前
喜んだり 悲しくなるのは 朝飯前
まともじゃない バカでもない 誰でもない
なんかしても 手をにぎっても 許してしまおう
ビーゲイザー 天衣無縫の丘に座って
薄汚いコートと醜い色をしたコップを持ち込んで
黒いコーヒーを一杯 キミと同じ
幼い天使 知り尽くした悪魔
どこへ飛ぶか 分からぬ弾
出会えば出会うほど 手を伸ばさなきゃ 見えない世界に
新しい光が届いてくる
おかしい人を ダメダメな人を リアルに信じて
自作自演で 落ちぶれる人がいても 僕は信じよう
それが夢でも それが本当でも キミはここにいる
夢中な心も あきらめの目線も 僕はきっと愛してる
アイムゲイザー 薄汚い商店街の朝にため息をついても
醜い虫が溜まったゴミ捨て場も 日が沈んでしまえば
夜になってしまえば 光が見える キミも同じ
ビーゲイザー 天衣無縫の丘に座って
薄汚いコートと醜い色をしたコップを持ち込んで
黒いコーヒーを一杯 キミも同じ
…3年後、とある富裕地区の一角に1人の男が住んでいた。
富裕地区にはまたいつものように朝が転がり込んでくる。
彼も、銃を片手にベットの上で寝返り、転がる。
耳障りな目覚ましは今日はならない。有給を取ったのだ。
いや……昨日大きな報酬を貰ったからだというのが素直か。
彼は富裕地域の政府の機関、「RB」という組織で働く。
正式な名は「Rich man critical Back man」という。
Back manとは、つまり、「後ろの人々」
「経済的に自分たちより遅れをとるもの」…そう、
貧困地区の不法侵入者を捕らえる仕事をしている。
男はプロ意識が高かった。
忠誠心も、それなりに…それなりにだが、あった。
だが、この仕事が生き甲斐と聞かれれば、間違いなくいいえを言うだろう。
…とは言っても、自治政府の認定テストでも常に主席の運動神経を誇り、
性格診断テストもちょうど良い「猟犬」だった。
「…ふぁ…今日はいつもより早く目が覚めたな…。」
窓の光は今日も綺麗で、穏やかだ。
富裕地区はやはり富裕地区だけあって、発達がめざましい。
学校もあれば上水道もあるし下水道もある。
パソコンもあるし、携帯もある。
…それは2000年代の日本のような姿まで、
この街は、戻ってきている。
唯一昔と今の発達における違いは、「代償」だ。
そう、それこそ…
と、突然ドアが開いて小さな女が入ってきた。