第一章 「不幸な兄妹」3
「ふぅ……」
木は高さはそれほどでもないが、その葉の広がる幅が大きく、木陰で休もうとするには丁度良かった。草原にはそのような青々しく茂った大木がいくつか空に向かって伸びており、こっちが見ただけでも平和な光景だった。
胡桃は少し息をついて木の幹に寄り添う。ここで昼寝をされても困るので「寝るなよ」と言うが、彼女は「あぁ、うん、分かった」と力の抜けた返事をして、目をつぶろうとしていた。想わず苦笑いをして、仕方ないな、と自分も隣で少し眠ることにする。買い出しの途中なのでお金しか持ってきていない。これはジーンズにでも押し入れておけば平気だろうと、僕は安心して目をつぶった。
——勇者が来る。
——僕たちの町に、勇者が来る。
村の子供達は、またそんな感じで喜んで踊っているのだろうか。
以前、僕も胡桃も幼い頃、始まりの村にはドラゴンがやってきたことがある。野生のドラゴンのようなどう猛さはなく、人なつっこく、巨体をめんどくさそうに動かす姿は、男の子の想像とは少し違っていたが、別の意味で僕たちは彼のコトが好きになった。
彼はもう年老いていたらしく、炎は吐くことはなかったので、子供が近づいてもとがめられることはなかった。なので、僕や友達数人で彼の背中に乗ったときは新しい世界にスリップしたような気分だった。
結局、数年後、彼はまた別の町に連れて行かれたのだが——
「おにぃ」
誰かの呼ぶ声で目を覚ます。横を見ると、「早く起きなよ」と言った顔で俺の頬を見つめている胡桃がいる。空を見ると、まだ青さは残っているモノのだいぶん白みがかっている。午後3時頃と言ったところか。
「寝過ぎた……ってほどでもないよな」
「うん、でもそろそろ行かないと帰るときには夜になっちゃう」
「そうだな。もう行こう」
僕は立ち上がって、ジーンズに付いたわずかばかりの草の破片を叩いて落とす。胡桃も同じような仕草で草を落としていたが、ふと何かに気付いたように草原の向こうの方を指さした。
「え?何?」
視力が悪いので遠くの方は良く見えない。
「誰か倒れていない……人……」
「人が倒れているのか」
「うん……」
僕は至極冷静に答える。
倒れているフリをする盗賊もいるのだ。倒れたフリをして近づいてきた優しい人を不意打ちにして殺してモノを奪う。村の会議で最近そんなパターンが多いと言うことで僕も警戒するようにしている。
そんな中のコレなので迂闊に信用することは出来ない。
「男の……人だと想うけど……」
胡桃はじっと、その丸くて大きな目を、その遠くの方で倒れている人影に向けている。
(短くて申し訳ない)