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[ 空気を読めって言ってるけど、何も書いてないよねぇ。 ]
ここまで来たらYesしかないと踏んだ男にとって、"吸血鬼"は想定外だった。
少しは空気を読め、とは思うが。それも面白いとも踏んだ。
殺されるかもしれないのに、逆に興奮が止まらない。殺人鬼だよ、隣にいるのは。
「目的を言ってくれないか?俺はお前と似ているかもしれない」
似ているかもしれない、はただの誘い文句。目的を引き出せば十分なんだ。
だが、何か違ったものを感じる。"吸血鬼"からだ。その目には、何か決意めいた物を感じる。
「人間に侵食されている、チャオを救うために殺した。仕方が無かったんだ」
その言葉を聞いて、出来事の抜けている部分に補足をする。
そうして、事実を改めて知ることになる。
"吸血鬼"はチャオのある一面から、解放してやろうと殺すことを選んだこと。
たまたま選んだ殺害方法が吸血で、その血に浸かることを楽しんでしまったこと。
チャオと接する人間が許せないこと。
それら全てを聞き出したところで、"吸血鬼"は無線でどこかに連絡を入れた。
「仲間に連絡したのか!?」
「違う、警察へだ。ここに直にやってくる。俺を捕まえにな」
自首ではすまない問題だ。ここまで完璧であったこの"吸血鬼"が、法に甘えるというのか。
だが、見た目よりはるかに辛口な法は守ってくれない。
本当に、救うだけのために実行したのだと思い知らされる。
いつからか、この"吸血鬼"を救うことを考え始めた。
「野良猫がいる。[ 迷子の子猫ちゃんは、野良猫しかいない率99% ]。
それがチャオだ」
唖然としながら、"吸血鬼"の断末魔。違う、いやに楽しそうな最後の言葉を聞き入れる。
「人間は、偏見を持つ。例えば、宝石の色をしたチャオがいるじゃないか。
[ ジュエルチャオって、宝石店で密売されてそう ]とか、くだらない偏見を持つんだ
そのイメージにチャオは振り回されることになる」
他にも、無駄にパーツをつけているチャオは人間に好かれてそうとか。男は理解していた。

「もし過去に戻れるとして、そのチャオの一つ前。親に当たるチャオを殺したらどうなるか考えたことがあるか?」

異端。
「というか、過去に戻って何かを壊してから現世に戻ってくると、それは壊れたという記録が現世に刻まれる。
なら、親は死ぬ。子に当たるチャオを生んだ後に俺が殺したとなれば、どうなる?」
男はたじろぎもせず答える。
「それは簡単だ。親だけが死ぬ。生む前だったらそのチャオも死ぬ」

「なら、子に当たるチャオが過去に戻り、子を生む前に親に当たるチャオを殺したらどうなるんだ?」
と"吸血鬼"。
「そりゃあ、親チャオが死んで子チャオも死ぬだろう」
と男。

「時間軸を考えると、子供は予め過去に戻り、親を殺すという運命を背負っているとする。
そこでだ。子供を生まないように、子供自体が親を殺す。
不思議に思わないか?"子供がいない状態なのに、親は死ぬことになる"。子供なんて元からいなかったことにされるのか?
生む前に殺したのだから、生まれない。なのに、生まれてない子供に親は殺されることになる。
だから、殺されるのだとしたら親は生きている必要がある!でもそれだと生まれないんだ!」
矛盾の話に良く似ている。
有名な物で、「何でも通す矛と何も通さない盾」の話がある。
この盾にこの矛を突いてみるとどうなるか、といった世界一と世界一が戦うかのような、矛盾が生まれる。
通すのなら盾は嘘になり、通さないのなら矛は嘘になる。
実際にやったら、どうなるかが想像もできない。少しへこむ程度になるのか。
それと良く似ている。だが、それがどう関係しているのか。
「チャオの血にはまだ秘密があるはずだ。だが、もう絶対にチャオには触れてはいけない。
これはお前が絶対に通せ。お前だけは"人間"だ」
言い終えた後、なんて声をかけていいのか分からなくなり、静寂が襲う。
だが、無線で通報をしていた。警官が飛び込んできたのだ。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第223号+ソニック生誕記念号
ページ番号
11 / 12
この作品について
タイトル
「泥酔した吸血鬼」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第223号+ソニック生誕記念号