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しかし、楽しみはすぐ終わるだろう。
男が放送局に入ってしまったことでもう全ては破滅した。
敢えて放送事故を装い、事実性を高める。
さらっと「私服で捜索しています」と言うよりは、「映像の乱れ」の方が何かと信じられる。
タブーに触れてしまって慌てふためくといったところか。心理的なこともある。
実際、病室の男も信じた。
そう、男は民衆に「吸血事件」が本物であることを知らしめた。
チャオをストローで吸う、なんてとても信じられない事件だ。実際は男の性癖。
注射器で血液を吸い上げ、その血液で何かを楽しんでいる。それを冗談のようにでっち上げたのは警察の圧力。
圧力を乗り越えたのは放送局ではなく、男だった。
本物の事件であることをアピールした後、本当の崩壊はそこにあった。
放送事故により、警察がその事件を隠していたことが信頼の低下に繋がる。
私服で捜索していることが既に男にバレているにもかかわらず、警察は男に下った。
そもそも、なぜ男は私服で捜索されていることを知っていたのか?
そこまでは分からない。男はチャオの死体を盾にスタジオへ乗り込んだということまでは強引に考えられる。
元々、流して欲しい映像があったからではないか?
既に何匹も何匹も吸われていることや、シワシワになったチャオの映像。
それら全てを流し、"警察が隠蔽していた「吸血事件」"とでも言えばたちまち噂になる。
なぜそんなことをしたのか。全ては警察の信頼低下。"そこ"だ。

もしも誰かが、犯罪があまり無かったこの街で、未だに気付かれずに犯罪を行っていたとしたらどうだ?
カジノもある。犯罪が見つかりにくい場所がある。発生しないわけがない。
常に競争心を持ち、その成れの果てが犯罪であるのが人間。発生しないわけがない。
つまりは、犯罪の増加に繋がってしまう。警察がそんなことを許してしまっていいのか。
駄目に決まっている。表向きは犯罪の無い街。当たり前だ。警察は考えられない、本物の警察だった。
テイルスの偽造機。あれさえもスルーしてしまったことからも、警察のやる気も疑われる。
名前からして少しヤバイ線だと。普通、訂正を試みるはず。
「吸血事件」を一斉に捜索していることも同時に判明した。テイルスの方に気が行かなかった。
あまり犯罪が表向きにならないこの街で。一つの表向きになった「吸血事件」を未然に防いだという形にしたいがために。
ここまで波紋を呼んでしまったのか。答えは冷徹なる現実であった。
男に薬が効き始める。その体には、血液が気持ちよく循環し始める。
そして呟く。
「[ あの夜から探していた、ここが僕の帰る場所です ]。男の隠れた謎。目的を調べ上げる」
その目には一つの目的をまっすぐに見つめる、爽やかなものがあった。

"吸血鬼"は微笑んだ。
自宅の、薄く赤い風呂桶の中で。風呂桶の横にはチャオの死体が一つあった。
あの夜に連れこんだチャオ。そのチャオを見て、不思議に思うことがあった。
「[ ポヨは何で浮いているんだろ? ]」
死んでいることが確実なこのチャオの、未だ浮いている"ポヨ"。
顔を見られてしまった、あの男を殺そうとした矢先に警官がはむかった。その報いを別のことに考えている最中であったが、ついつい考えた。
考えてみればチャオは不思議な生物である。
その血を吸い上げれば、何故かシワシワになる。そういえば、臓器はあるのだろうか。
血と一緒に、空気が抜けるようにして消えてしまったのか。全ては謎であった。

男の最初の殺人は、偶然なものだった。
駅の前で、あの夜と同じ時間に一人でぼんやりと月を見ていたときのこと。
チャオが何かを呟きながら横切っていく、その様。
そもそも、なぜチャオが外に出ていたのか。そこから男の犯罪劇が繰り広げられていった。
そう、"ポヨ"の形だ。男が見たチャオの"ポヨ"の形は、紛れも無く"グルグル"であった。
不快。そう、ガーデンからの抜け出しはそこにある。
だが、エレベーターの操作など、チャオは理解していたのだろうか。
答えはYesだ。何人の人間があのガーデンに訪れたことか。
嫌になり抜け出した。集団で反抗期になっていた。その考えに至るまでの過程のうちに、一つの事実に気付いた。

この社会からは生産性が消えた

このページについて
掲載号
週刊チャオ第223号+ソニック生誕記念号
ページ番号
7 / 12
この作品について
タイトル
「泥酔した吸血鬼」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第223号+ソニック生誕記念号