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気がつけば、二人はどこかへ消えていった。
銃の発砲が確かにあった。吸血はされていないはずだ。発砲音。
死んだフリではなく、反射的に気を失った。しかし、すぐに取り戻したはずだ。
弾は出ていない。不発だった。火薬の問題だろうか。それとも、元々空砲同然の物だったのだろうか。
思い込みでこんなにも恐怖を思い知らされた。「吸血事件」の真相とは一体どんなものであったのか。
テレビはつけっぱなし。そんなに時間は経っていない。
「[ テイルス、お札偽造機開発! ]
盗難に合わないように、偽造して防ぐ法スレスレの画期的な機械があのテイルスによって」
流すことが無さ過ぎて、逆にありすぎるのか。
日常的な物になると、テーマはどこにでも転がっている。
男は思う。このテイルス。彼は今の時代を切り開いていく、一種の天才。救世主なのではないか。
彼の頭脳を使えばこんな事件なんて解決できるかもしれない。
が、偽造機を作っていたほどの時間の使い方。関心無いのか?それとも、もっと何かの狙い。
"彼"のインタビューが始まる。力を持て余す彼。その輝かしい笑顔。正直、嫌になる。
「簡単に言うと、お札ではなくそんな風に見える物を偽造するんだ。
それを持っているだけで、盗難の目はそっちに行く。嫌でもそっちに行く。
でも、大々的にアピールしちゃうとタネがバレちゃうよね」
笑い混じりに話す。お札偽造って、それだけ見りゃあ立派な犯罪だ。
買ってからのお楽しみだそうで、思いっきり詐欺の疑いもある。
発表だけしているつもりだったのか。頭がもっと痛くなる。
局を変えた。見ていられなかったのだ。余計なことに頭を使いたくは無い。
一つ回すとポップなイラストが動き回るアニメを放映していた。
正直興味は無かったが。気休めになるかと流すことにした。立派に子供向けの内容。
「[ まぁ、とりあえず寝ようや ]」
「[ そのまま落とし穴で寝るな! ]」
何か穴に落ちて、そいつが寝ようと言い出す。不条理ギャグらしい。子供にはバカ受けのジャンル。
こんなことをしている物に限って、リアリティの無いことをやりだす。
「水を流し込むな!」
「[ 睡眠水泳方法 ]を使え!」
「なんだそりゃ!?」
やるせない。水を流し込んだら土が吸っちまうじゃないか。
良く分からない言葉を垂れ流すのもまた不条理。
「ジャンプしてこの[ ヤシの木によじ登るんだ ]!!もう寝るな!むしろ寝ろ!」
「[ 崖の所で転んだ ]のはお前のせいだろ!お前がこっちにヤシの木投げろ!」
「間違えて実を投げたようだ」
「食って良いか?」
「[ やめろ!そのヤシの実は毒入りだ!! ]」
「うるせぇぇぇ!毒入ってない奴を俺にっ」
「[ うるさい!お前の物は俺の物だ! ]このヤシの実は全部俺のっ!」
反射的に電源を消した。
「考えてみれば、こんなもので機嫌を悪くすることも無い。
合わないから」
男が呟くと、そこではっといくつかの考えが頭を過ぎる。
あの夜、警官は全員が全員、本気だった。目の開き方や、冷や汗を掻きながら男を追いかけたり、残った男の無事を確認したり。
それが急にあんな感じになるとはとても思えない。警察が犯罪者?治安は元々無いってか。
大きい署が全て一人の男の手に下る。そうとは男にはどうしても思えなかった。
あの男には考えがあった。警察をもひっくるめ、勝利に貪欲であるがために。
放送事故だ。あれはあの男が自発的に起こしたもの。
警察に対しNGワードを発することで、警察が飛び込んでくることは考えやすい。
「吸血事件」担当の警官。あの警官が飛び込んでくることは簡単だ。
警官が放送事故の際、どこかに電話していたのを思い出す。
文書を打っていたのではない。ちゃんと受話する体勢になっていたはずだ。それは確かだ。
男の頭に数々の出来事が交差する。
通信手段を一切切り、飛び込んでくるしかできなくしてしまう。それが男の手段であろう。電話線を抜いてしまえば繋がらなくなる。
シワシワになったチャオを見せれば、その数分前に「吸血事件」特集をしていた側からすると驚きだ。
注射器も併せて出せば完璧かもしれない。とにかく、奴だ。真犯人。
しかし、既に警察が丸められているとするならば何かを放送局で奪い取ったことになる。
"人質"か、"放送したテープ"。
どちらも効率がいい。どちらかといえば、後者の方が可能性が高い。
生放送であるが、録画していることも考えられる。あの部分のみを何回も何回もリピートすることにより、聞き取れるはず。
だが、もう遅い。テープにより警察が丸め込まれた。
放送局を警察が抑え、その警察を男が覆う。通信手段や、自分の障害を取り払う。これで守りは完璧。
守りに走るぐらいなら犯罪なんて起こさなければ良いとも思ったが、先ほどの不条理アニメの影響で少し理解できた。
男は全てを楽しんだ。チャオから吸血することを楽しんだ。誰かを見下すことを楽しんだ。今も楽しんでいる。
全てが楽しみだ。