[[ .3 ]]

「助けてチャオ!」
何かに蹴られて、無理やり起こされた男。アルコールを自ら摂取したのだと自覚する。
一種の魅力だろう。惹かれた。やってみたかった。やった。こうなった。
頭が痛い。起き上がることができない。横に倒れている男の目に映る光景。
誰かが目の前に立っている。これは人だ。あのチャオの声も聞こえる。
「こいつは起きちゃいない。目が冴えてきた。これが俺の楽しみだ。ここまでエサが」
状況が理解できない。ただ、分かること。これは先ほどまで喋っていた男。
いつの間に気を取り戻していたのか?もしかすると、アルコールを摂取したかのように見せかけていただけなのかもしれない。
「魚のメスが魚のオスを大量に引き寄せるように、簡単な罠で」
注射器の針が手首に刺さっていない。引き抜かれたのだろうか。
声をあげようとすると頭が痛くなる。考えるだけで頭が痛くなる。衝動的とは言え、やらなければよかった。
「[ ・・・誰? ]」
チャオの声も入り混じって聞こえる。男の声はここまで正確に届かない。
蹴ったのは明らかにこの男だ。何を目的に蹴ったのだろうか。気晴らし?
「一本の道を歩くかのように近づいたのが終わりのしるし」
ボソボソと男が長い言葉を発している。よく聞こえない。体が動かない。
この位置からなら男を転ばせることができる。腕を大きく横に振る。
足が取られ、後ろに尻餅を付くだろう。だが、何も動かない。
鼓動が激しくなる。
「[ チャオにストローを刺してシワシワになるまで水分を吸い尽くしてしまう事件が多発中 ]って聞いたこと無いチャオ!?
早く起き上がって!」
チャオが大きく声をあげる。
近隣の建物の明かりがついているところがある。男でなくそちらに声が届いた。
「なにをやっているんだ!!」
警察の怒鳴り声。照らされる駅前。珍しく聞こえたあの音。パトカーの音。
男は焦らずに注射器をチャオに突き刺すと、ピストンを引き抜いていく。血を採取している。
引き抜いた後、ビンだけを取り外して胸のポケットに入れる。
そうしてから、チャオと一緒に逃げて行った。
警官の二人が追いかける。一人が駅前に残った男に事情聴取を試みる。

「彼は一体何者なんですか?」
「初対面です」

コンビニに夜食の買出しに行くと、その男は駅の前で座っていた。
目的も忘れ、雑談に没頭してしまった時にその事件が起こった、と男は包み隠さず喋った。
もちろん、アルコールのことも喋った。精神鑑定を受けたが異常は無いそうだ。
今、男は病院に収容されている。アルコールが完璧に抜け、後遺症も何も無いと診断されたら退院できる。
夜が明け、本格的に眠りに入った男の下にあの警官がやってくる。
個室。特に怪我するようなことをしているわけではない街であるし、念のため程度に作られた病院はそんなに人はこない。
ので、個室を提供できるまでにスペースがある。もちろん、混んで来たらベットをいくつか入れて共同部屋にすることもできる。
今は個室である。"今は"。

病室のテレビのリモコンを取り、電源を入れる。
体はまだ起き上がれないが、腕は動かせる。異常なし。
警官がその様子をじっと見ている。
「体の様子は大丈夫か?」
ゆっくりとそう言うと、近くの椅子に腰掛けた。
帽子を取り、前かがみになっている。真剣な顔つきだ。こんな風にしてしまった責任を感じているのだろうか。
リモコンを操作するのにも、指が思うように動かない。力が入らない。
頭が痛いのもあるが、二日酔いなのかもしれない。起きたばかりなのもある。
「[ 「観衆に石を投げれば犯罪者に当たる」っていうけど、「そもそも観衆に石を投げる人物こそ犯罪者である」と言う考えが一番有力 ]」
男は小さく言い放った。
テレビにはニュース番組が映っている。ハイライトは「吸血事件」。蚊がたくさん飛んでるとでも言うのか。
「なんだそれは?」
突然男が発した言葉の意味を理解するのに手間取っている。
「球場かどこかのことかも分からないが、それだけ犯罪者がいるってことさ」
そのことを聞き、やっと理解をした。しかし、もう一つ。
この言葉を発した意味。
「犯罪者なんてこの街にはあまりいない。警察も、この報道関係の業界もあまり役にさえ立っていない」
叩きつける感じで、一気に言い終える。
「石を投げ込む奴も犯罪者。当たるのも犯罪者。皆犯罪者だ。悪事に制裁を下そうとする警察さえも"悪"ってことだ」
その言葉を聞き、勢い良く警官が立ち上がる。
今にも殴りかかりそうなその体を抑え、再び腰かける。
「それは捻じ曲がった解釈だ。警察とは別物。それはその場所の治安を表す言葉だ」
プライドがある。特別な意味は無い。
もしものことに備える為に、警察が設置されている。
今、そのもしものことが起こっている。それで警察全体がピリピリしている。
「"チャオ吸血殺人事件"の犯罪者には石を投げ込んでも良いんだよな?」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第223号+ソニック生誕記念号
ページ番号
3 / 12
この作品について
タイトル
「泥酔した吸血鬼」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第223号+ソニック生誕記念号