(3)

 コードCHAOは振り上げた手を、そっと下ろす。
 やさしくにっこりと微笑むように——されど悪魔が魂を抜き取る時のように——妖艶に、純粋に、コードCHAOと呼ばれる謎の生命体は笑った。
 なぜ殺さない? 春樹は疑問に思って、警戒を怠らぬよう、辺りを見回す。何も異変はない。あるとすればそれは戦闘の痕跡。

 仲神春樹はハンドガンを構えた。そして——


 ——コードCHAOに問う。貴様の目的は何だ?


 『コードCHAOを抹殺せよ』


 3 地球自然回復計画


 コードCHAOはまたもや微笑む。これは戦闘意識がないのか? しかし油断は出来ない。春樹はハンドガンをおろさず、黙って答えを待った。
 彼、いや、彼女かもしれないが、コードCHAOはさきほど「波紋」のようなものを生み出したと考えて良い。それが銃弾を吸収し、はじき返した? もしかしたら吸収してから好きな時に解放できるのかもしれない。
 となれば、八十人の武装集団が敗北したことにも納得がいく。
 陰謀説は消えてはいない。新たな仮説として自分を殺さない理由に、「捕らえられる」という選択肢が増えただけだ。春樹は自分の考えに改めて納得すると、コードCHAOの一挙一動を見逃さぬよう注意した。
 しかし、コードCHAOは動かない。それどころか何かを語る気配すらない。もしかしたら、攻撃を吸収し解放する能力はあれど自分から攻撃する能力はないのではないだろうか?

 ——なら、コードCHAOは放って置けば問題ない。イコール陰謀説が色濃くなる。放って置けば良いにも関わらず、わざわざ抹殺するのは……生態を調べられたら困るという選択肢もあるか。

「仲神春樹。血液型はAB。幼い頃から天才肌と呼ばれ、その実力を遺憾なく発揮し、GUN関東本部に入隊。現在、研修生として訓練を積んでいる」
「……目的は何だ? お前の正体は? なぜそこまで調べが付いている?」
「君に頼みがある」
「聴こう」

 銃を狙い定めたまま、春樹は頷いた。コードCHAOの情報から何か推測が出来る可能性もある。注意を削いではいけない。
 コードCHAOはゆっくりと歩いて、ソファの上に飛び乗った。行動の意味が分からない。気まぐれか?

「地球自然回復計画——全世界の機械を停止させ、有酸素連鎖爆発を起こす計画が発動している」
「有酸素……? 何だそれは。誰が計画している事だ?」
「同胞だ」

 コードCHAOの言葉は冷たかった。ただ現実を淡々と語っているだけの言葉の連続。
 恐らく本当に危機が迫っている。春樹には全世界の機械を停止させる方法など思いつきもしなかったが、それがコンピュータのみに限るなら出来ないでもないと思った。
 そもそも、コードCHAOの存在が謎だらけである。地球自然回復計画というのは、自然破壊生物たる人間を殺し、自然を食物連鎖の頂点に置く、という考えで良いのだろうか。

「現段階では準備。ワタシは人間の支配化に及んでいると見せ掛け、それを阻止すべく動いている。今までに来た人間はワタシの能力を目の当たりにした瞬間、ありとあらゆる攻撃でワタシを抹殺しようとした。しかしワタシにはとある能力が備わっている」
「ボクは慎重だった。だから採用、という訳か……だがお前の話を信じる義理も理由もない」
「ワタシたちの能力はキャプチャー。物質を取り込み自分の能力として扱う事の出来る能力だ。信じてもらうためならば何でも話そう。そう、たとえばキャプチャー能力の弱点」

 表面上は冷静を装っていたが……春樹の頭は困惑で満たされていた。コードCHAOの同胞が計画する地球自然回復計画。全世界の機械を停止させた上での有酸素連鎖爆発。専門的な知識だろうが、春樹といえど見当も付かなかった。
 コードCHAO、彼の話を信じるならば——彼は同胞を殺そうとしている。仲間を殺そうとするか? 目的は何なんだ?

「質問に答えよう。ワタシは地球自然回復計画に賛成していない。だがキャプチャー能力には弱点があり、ほとんどの同胞は計画に賛成的だ。この意味が分かるか」
「計画に反対すれば、抹殺されるという事か……良いだろう。仮に信じたとして、ボクに何が出来る? お前の同胞の抹殺か?」
「ワタシを殺せ」

 思いもしなかった選択肢に春樹は一瞬動揺した。
 相手の思惑に乗せられている気がしてならない。それどころか、目の前にいるコードCHAOを抹殺してどうにかなるのだろうか。殺したところで計画が発動する可能性もある。
 安易に殺すべきではない。上司と掛け合う——だめだ。春樹はその考えをすぐさま否定する。上司は黒。黒幕は明らかに上司だ。誰だ? 副司令? それともあの明朗快活な女性か?
 取引として黒幕の名前を教えてもらう。……問題はない筈だ。本当にこいつが味方ならば。

「黒幕は誰だ。GUNと関わりがあるのは分かっている」
「……知らない。コードCHAOと呼ばれるシステムは全てで一つ。一つ死ねば全てが死ぬ。同胞から指示を受けているだけのワタシに出来る事は、ワタシの命を持って同胞を殺す事」
「信用する事は出来ないな。だが、お前の情報には価値がある」

 春樹の頭に名案が浮かび上がった。

「お前、ボクの家に来い。信用出来るかどうか判断してやろう」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第331号
ページ番号
4 / 19
この作品について
タイトル
コードCHAOを抹殺せよ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第331号
最終掲載
2010年1月6日
連載期間
約1年5ヵ月12日