Scene:5
彼が退院してから数日後。
彼は、女性が紹介してくれた刑事と共に、事件があったチャオガーデンにいた。
ステーションスクエアのチャオガーデンはあの事件以降閉鎖され、現在は修復工事中である。所々で壁が剥がされていたり、足場が組まれていたりと、まさに工事現場となっていて、かつてここでチャオが暮らしていたという面影は薄い。
「ふぅ…っと、いくら工事中といえどここでタバコはご法度か」
刑事がポケットに手を入れたが、すぐにこうつぶやき手を戻す。ここはチャオガーデン。勿論普段は禁煙であるし、工事中である今も喫煙はしないよう工事業者に通達が出ている。
さて、このまさに刑事ドラマに出てきそうな風貌の男が、この事件を担当している刑事である。
本人は「さすがに俺みたいなのは今時逆に珍しいよ」と笑っていたが、そんな話を聞きながら彼は、刑事というのはどの世界も似たようなものになるのだろうか、と思っていた。
ここ数日、刑事に彼はこの事件の重要参考人として、あの時の状況などを詳しく話していた。
最も、背後から突然何かで殴られて気を失ったので、語れることはほとんどない。どうしてチャオガーデンに1人で残っていたのか、という経緯の説明ぐらいである。
「さて、改めて話すが…犯人はお前さんと同じ漂流者の可能性がある。現場に落ちてた漂流者カードが白紙だった、というのが少々気になるが…」
と、刑事はチャオガーデンをぐるりと回るように歩きながら話す。
「そもそも、漂流者カードは印刷された状態で役所から渡されますから、白紙ってのはおかしいですよね」
「だよなぁ?俺は元からこの世界の人間だから、その辺の詳しい事情は分からんが…漂流者はこれがないと色々不便なんだろ?」
「はい、身分証明書みたいなものですから…仮に紛失したら、正直生活できなくなります。ですから…」
そこで彼は話を続け、こう彼自身の推測を話した。
「仮に犯人が漂流者だとしたら、犯人は、この場所に戻ってくるんじゃないかと思うんです」
「…こいつを拾いに、か」
と、刑事は証拠品である白紙の漂流者カードをポケットから取り出しつぶやいた。
そして彼は、さらにこう続けた。
「はい。そこで、1つ提案なんですけど…」
彼が提案した内容を聞いた刑事は、首を振りながらこう否定した。
「…おいおい、さすがにそれは危なすぎて認められねぇよ、現に似たような状況からお前さんは殴られたんだぞ?」
「でも、どうしても確かめたいんです!」
彼はそう言い食い下がる。
「気持ちは分かるが、それをするのは俺達の仕事だ。お前さんの元いた世界も似たようなもんだろ?」
「犯人がもし漂流者だとしたら…同じ漂流者にしか聞き出せないことも、あるはずです」
こうしてしばらく押し問答が続いたが、最終的には刑事が折れた。
「…分かった。その代わり、何かあったらすぐに俺が出るからな。それが条件だ」
「分かりました。それで構いません」
「そうなるとチャオガーデンを空けといてもらわなきゃいけねぇか…その辺は俺がやっておくが、今夜からいけるか?」
「はい、いけます」
刑事の問いかけに、彼ははっきりと答える。
「よし、それじゃ今夜もう一度玄関で集合だ。…当たり前の話だが、犯人が都合よく来るとは限らねぇ。長期戦を覚悟しとけよ」
「はい」
刑事の忠告に対し、彼はシンプルにそう返事をした。