第9話・なみだ
月の光で浮かび上がった友の姿に
ティルは嬉しさのあまり大声で叫びました。
「キャ~ス~~!」
・・・ところが当のキャスはというと
ティルの声に反応することも無く、じっとガーデンに備え付けられた人工の池を眺めているようでした。
「キャス~、どうしてこんなとこにいるのさ? 探したんだよ。」
走ってキャスのところまでやってきたティルは、息を切らしながらキャスにたずねます。
「・・・・・・」
しばらくの間、ティルは相手の返答を待っていましたが、なぜかキャスは答えようとはしませんでした。
「キャス、なんだか変だよ。 ボーっとしちゃって・・・ 」
友の異変に気づき始めたティルが、もう一度声をかけると
キャスはポツリポツリと呟くかのように話し始めました・・・
「ティルは前、太陽みたいになりたいって言ってただろ?」
突然の問いかけに驚きながらも、ティルは「うん。」と相槌を打ちます。
「でもさ・・・」
ティルが答えるか答えないかのうちに、キャスは話を続けます。
「僕たちの命って言うのは、この月みたいなものだと思うんだ。」
あまりにも唐突な話に、ティルはキャスの顔を覗き込みます。
うつむいたキャスの瞳に、月が写っているところを見ると、
どうやらキャスが池に移っている月のことを話しているのだ、ということくらいしかティルには理解できませんでした。
ティルの頭の上の「?」マークとは関係なく、キャスの話は続いていきます。
「今はこんなまん丸で、僕らを照らしてるけど、だんだん小さくなってついには見えなくなる。前にソニックが教えてくれたろ? 」
そこまで話すと、キャスはゆっくりとティルのほうを向きました。
「ティルがまん丸の、今夜みたいな月だとしたら、僕はもう・・・・・・ 」
「そんな難しいこと言われても、よくわかんないよ・・・」
耐え切れなくなったティルが話をさえぎります。
しかし、キャスは特に気にするような様子も無く、こう言いました。
「今はわからなくてもいいんだよ。 ・・・元気にね。」
混乱しながらも、最後の言葉だけは理解したティルが問いかけます。
「キャス? 『元気にね』ってどうゆうこと?」
しかし今度もキャスは質問に答えずに、やさしくティルに笑いかけました。
ティルがその微笑の意味がわからずにキャスのほうを見つめていると、急にキャスの姿がぼやけて見えてきました。
ティルは何度か目を擦ってみましたが、キャスの体はどんどんぼやけていくばかりでした。
不思議に思ったティルがキャスの周りを観察してみると、どうやらキャスは白い膜のようなものに覆われていっているようでした。
なぜだか、急に悪寒を感じたティルは、キャスをそこから引きずり出そうとしましたが、
その『膜』はふんわりした見かけと違ってずっと硬く、ティルが穴を開けることは不可能でした。
「キャス~~! キャス~~!」
その『膜』をどんどん叩いて、ティルはキャスに出てくるよう促しましたが、
キャスはいまだティルに向かって微笑んでいました。
目に大粒の涙をためながら・・・・・・