第5話・薄紅の来客
それからしばらくの間
ティルは大きな声で泣いていました。
二人っきりしかいないガーデンなのに
ティルに相手にされなくなってしまったキャスは
一人で寂しく遊んでいるようです。
疲れて泣き止んだティルは
そんなキャスの姿を見ながら、
なんとなく
最近はガーデンに来ない「ある人」のことを思い出していました。
「ある人」は一週間もガーデンに来ないかと思えば
突然やってきて、たくさんのお話を
ティルたちに聞かせてくれました。
どきどき、わくわくの冒険のお話です。
その「ある人」は特別好きな人ではないのに
こんな日はいつも脳裏によみがえってくる、
そんな魅力を持っていました。
それがなぜなのか考えながら、
気付くと、ティルは「ある人」の絵を描いていました。
青いハリネズミの絵です。
その「ある人」の絵が完成に近づき、
興味を持ったキャスが近づいてきたとき、
ちょうどガーデンの出入り口の扉が開きました。
無意識にティルとキャスがその方向に目を向けると
真っ赤な服を着たハリネズミの女の子が立っていました。
手に買い物袋をさげているところを見ると、
買い物帰りのようです。
大きく息をすった彼女が
いつもの抑揚のある大きな声で
「二人とも、元気にしてた~?」と叫ぶと
二人も大きな声で返事をします。
その二人の声を聞くと、
彼女はにこっと笑って二人のほうに近づいていきます。
そして、二人も歩み寄ろうとしたとき・・・
彼女が大声を上げました。
「キャ~~!」