1・墜

月曜日の午後だった。
あるチャオが落下事故を起こした。
原因は・・・羽が生まれつき弱かったらしい。
そのチャオはもう飛べなくなってしまった。

・・・羽がおれたのだ。

「・・・大丈夫?」
聞き慣れた声。
「もう、飛べないんだね・・・」
しかしそれはそのチャオにとって嫌悪の言葉だった。
『飛べない』という言葉が突き刺さる。

しかし、チャオは心情を3つでしか表現できない。
人間で言う2才くらいのその感情表現に、
嫌悪の言葉を浴びせるなと言うような表現は無理だ。
しかし、精一杯ぐるぐるを出すことはした。

「お腹がすいたんだね。ご飯を持ってくるよ・・・」
やっぱりだなぁ・・・飼い主に自分の感情は伝わらない。
こういうとき、信頼関係にも片思いがあると悟ってしまう。

「はい。実だよ。」
軽く渡された。その実。
しかし、それはチャオの記憶をフラッシュバックさせてしまった。

「お~い。今日も飛んでみますよ~」
幼稚園での先生の声。いつもの給食。
いま、飼い主から渡されたのと同じ実。色も形も。
「これで元気よく飛びましょうねぇ」
先生が元気よくみんなに勇気を付ける。
怖いチャオもいるのかぶるぶる震えて居るやつも。
いや、自分も入るのだが。
そう、今日はテスト。みんな怖いんだろう。

自分は年長、つまり2才という成長時期になっても、
羽だけは発達しない。
それは自分自身の一つであり最悪のコンプレックス。

みんなが空を飛べるのに・・・
下から見るだけの自分に感じる焦燥感。
「俺はもう飛べないだけのチャオだな。」

そうして、起きたさらなる悲劇。
よく覚えていない。
ただ飛んだ瞬間、バットが折れ様な音とみんなの悲鳴が
こだましたことだけは覚えている。

「・・・実、食べないの?」
飼い主が悪いわけではない。
そう、自分が悪い。いや、こんな子供を産んだ親が・・・

責任は誰にでも押しつけることが出来る。
要はそれを誰に押しつけるか。
「あっ・・・」
飼い主が声を上げる。
それはそうだ。いつもまじめな自分が新しい実を捨てたのだ。

そして、自分はベットを降りて、一目散に駆けた。
飼い主なんてものかのように通り過ぎる。
窓からも逃げれただろうか?普通のチャオなら。
ああ、羽のことが頭を離れない。どうしようもなく。

病院のやつからみられる自分に対する目は絶対零度を思わせた。
一つしか羽を持っていない為だろう。
そう、自分は羽を切られた。それが最善策らしい。

・・・なぜだろうか。
一番着たくない場所なのに。
そう、此処は例の崖、そして幼稚園。
要するに「事故現場」と言うことだ。

「あ、トビちゃんじゃない。」
後から声がする。話が分かる。
なにか・・・そう、後のチャオに言いたくなる。
愚痴、不満、健常なチャオに対して暴言を吐きたくなる。
「そうだよ。久しぶり。」
しかし、そんなことで親友関係を崩壊させたくない。
「おまえ、はねっちだろ?」

はねっち。俺の真友。親友でもなく心友でもない。
ただ、自分をさらけ出せる、有一のチャオ。
飛ぶことが上手い。それだけ、後は何も出来ない。
前の飛行テストではトパーズメダルの数を更新していた。

トビちゃん。俺のこと。はねっちとまるで逆。
飛ぶこと以外に長けている。
絵もティカルやエミーも描ける。走るのも速い。
前、平均アビリティテストは2400。
飛行は0、後が全て3000。何とも言えない、結果。

そうだ、これが結果。
転生もしないだろう自分のこの悲しみだけの生き様。
このままで終わるのだろうか・・・

「ねぇトビちゃん。」
いきなり話しかけてくるのでびっくりした目で見る。
「くくく、何か考えているようでさ。脅かそうと思ってね。」
本当に心情の分かるやつだと再認識させられる。

「ところでさ。」
彼が話の駒を進めてくる。それは、俺に考え事をさせないための、
彼なりの優しさなのだろうか。
「うん。何か言いたいことがあるの?」
とりあえず、無難な返事をする。
どうせ、羽の話に違いない。そう聞いて、話を振る・・・

はずだった。

「おまえが飛べる方法があるよ!」
「はぁ!?」
自分は一瞬のけぞり、そして驚きの目を彼に向けた。

続く。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第168号
ページ番号
1 / 3
この作品について
タイトル
チャオとヒコーキ曇り空わって
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第168号