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 ライトカオスと一緒に転移してきた先は、薄暗い、地下室のような空間だった。
 埃っぽさと、纏わりつくような湿っぽさを併せ持った空気のおかげで、吐き気がする。それに、かび臭い。
 だが、汚い空気に思わずしわを寄せた俺の顔は、すぐに驚きの表情に変わる。
 驚きのあまり声の出なかった俺に代わり、仰向けのまま転移してきたライトカオスが驚きの原因の正体を明かす。
「これが我が軍(?)の秘密兵器、『シャア専用チャオウォーカー』だっ!」
「おぉっ! ……名前には、一体どんな意味が?」
「細かいことは気にするな。この真っ赤に塗装されたチャオウォーカーはだな……実は、普通のチャオウォーカーに毛が生えた程度の性能だ」
「なるほど。なんだと?」
「だがお前なら、通常の三倍のスピードで怪獣に近づけるはずだ!さぁ、乗れっ!」
「まて、誰も戦うなんて、あうっ」
 もうとっくに回復しているんじゃないかと思わせる力で、俺はチャオウォーカーに無理やり押し込められた。本当に、普通のチャオウォーカーと変わらない。違うのはボディカラーだけだ。勝てるのか、これで。
「健闘を祈る」
 ライトカオスはチャオウォーカーに手を触れると、再び空間転移。一瞬で、瓦礫の山と化した街に戻ってきてしまった。
「さぁ、行け! あの怪獣を葬り去れ!」
「動かし方が分からん」
「オートパイロットだ。音声認識システムで、特定の単語を声に出すとあとは勝手に戦ってくれる。画期的な初心者救済システムだと思わんかね!」
「じゃあ、その単語をさっさと教えろ」
「いいだろう。その単語は……『ニンジャ』だ」
「もう一度言ってくれ」
「悠長なことを言っている暇は無いのだ、もう言わないぞ!『ニンジャ』だ!」
「……えぇい、ニンジャー! ……って、うわ!」
 ニンジャー、と叫んだ途端、チャオウォーカーが猛加速。強烈なGに襲われ、気を失いかけたが、何とか持ちこたえる。
 所々、地面がむき出しになっているコンクリートを削り取るように前方ダッシュ。そして、足の裏に装備されたバーニアに点火、逆バンジーの如き勢いで大空へ向かって跳躍した。
「リュウ、行きまーす!」
 無性に叫びたくなった。
 先ほどのライトカオスと同じように、チャオウォーカーは自在に空を飛び回る。いまだダメージの残る、動きの鈍い怪獣の周りをぐーるぐーる。
 そして、いよいよ攻撃開始。チャオウォーカー腹部の銃口からバルカンを発射。やかましい音を鳴り響かせ、大量の弾丸が怪獣に襲い掛かる。しかし、分厚い皮膚に全て弾き返され、まったくダメージを与えることが出来ない。
「くそ、全然訊かないぞ。他に武器は無いのか」
 俺は、適当にボタンを押してみる。ポチッ、とな。
 すると、コクピットのモニターに、大量の照準が現れた。そして、次々に怪獣にロックオン。
 チャオウォーカーの腹部から、今度はホーミング弾が大量に飛び出す。白い煙を尾のように引き、黄色く光る閃光が怪獣に次から次へとヒット。これは、なかなか爽快だ。
「ギャオオォォ!」
 怪獣にも、少しはダメージを与えられたようだ。
「次は……これっ」
 だんだん楽しくなってきた。別のボタンを押すと、再び大量の照準が。しかし、今回は腹部の兵器ではなく、背中のハッチからミサイルが大量発射。
 先ほどのホーミング弾よりも一発の威力が大きいようで、ヒットした際の爆発音が物凄い。こちらも、スカッとする兵器だった。
 しかし、どれもこれも決定的なダメージを与えるには至らないようだ。さっきからうめくような声を上げているものの、崩れ落ちる様子は無い。
「リュウくん、聞こえるかね?」
 突然、ライトカオスの声が聞こえてきた。いや、頭に直接響くと言った方が正しい。
「ライトカオスになれば、テレパシーなどお茶の子さいさいだ。リュウ君、そろそろフィナーレに持ち込もう」
「でも、ホーミング弾もミサイルも効かない相手だ。どうやって倒す」
「最後の切り札、『どっかんレーザー』が残っている。そいつで華麗にフィニッシュと行きたい所だが……」
「なんだ、何か問題があるのか」
「エネルギー充填に時間がかかるだけだ。五、六分あれば充填完了だが、しっかりした足場の上で無いと充填出来んのだ」
「じゃあ、どうするんだ」
「充填している間に踏み潰されでもしたらかなわんからな。私が時間を稼ごう。その隙にエネルギー充填を済ませ、私が合図したらレーザーを放つのだ。わかったかね」
「あ、あぁ……」
 ずいぶんと簡単な話だが、それでいいのか?
 俺は、ライトカオスの言うとおりボタンを押し、チャオウォーカーを降下させ、エネルギー充填作業に入る。
 照準はすでに怪獣に合わせてある。あとは怪獣がこのまま動かなければ、合図を待ってレーザーを撃つだけだ。
「ギャオオォォン!」
 それなりのダメージを負っているはずだが、本能で危険を察知したのだろう、ふらつきながらその場を離れようとする。
「そうはさせん!」
 一体、あの小さな体のどこにそんな力が秘められているのか。ライトカオスが、怪獣を頭から押さえつけ、動けないようにする。
 怪獣にも、それを振りほどく力は残っておらず、案外あっけなく、こう着状態に陥った。
 そして、刻々と時間は過ぎて行く……。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第287号
ページ番号
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この作品について
タイトル
カオスをねらえ!
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ第287号