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「エネルギー充填完了まで、あと一分だ。発射準備は出来ているかね?」
「あ、あぁ……」
ライトカオスの声が、頭に響く。残り時間まで、あとわずか。俺は、発射ボタンに手をかけた。
「……なぁ、ライトカオス」
俺は、ライトカオスに呼びかける。
「なんだね?」
「お前、さっき俺の名前を呼んだよな」
「……」
「やっぱり、お前は、セラフとアモンなのか?」
「……今の私は、ライトカオスだ。さぁ、三十秒前だ。準備はいいかね」
まぁ、いい。後でわかることだ。これが終わったら、問い詰めればいい。
「あぁ、準備は出来ている。そろそろ、そこをどいてくれ」
「それは出来ない」
「……何?」
「まだこいつには、力が残っている。だが、私の方はそろそろ限界だ。私がどいたら、こいつが逃げてしまう」
「冗談はよせ。いいから、そこをどけ」
「二十秒前」
「どけよ」
「十九、十八」
「どけぇ!」
喉が千切れるほどに力を入れて、有らん限りの声を出した。それでも、ライトカオスはどかなかった。
俺がいくら叫ぼうと、喚こうと、ライトカオスのカウントダウンは続く。
「どけっ、はやくどけ! お前がどかないと、俺は、撃たない!」
「十二、十一、十」
「邪魔だ、どけぇっ!」
カウントダウンが、十秒を切った時だった。
「お前が撃たないのなら、私が撃つ!」
何を言っているんだと思った瞬間、ライトカオスの言っている意味が分かった。
俺の右手が、勝手にボタンに近づいていく。
どんなに力をこめようと、右手は俺の言うことを聞かない。
「ライトカオスになれば、チャオの体を操ることなどお茶の子さいさい! 臆病者の弱虫は、そこで指を咥えて黙って見ているがいい! 私が一人で全て片付けてやる!」
「!」
「五! 四! 三! 二! 一!」
「くっそおぉ!」
俺は、言うことの聞かない右手に力を加える。全てあいつ一人にやらせるなんて、俺には出来ない。俺は、右手を振り下ろすように、力を入れる。すると――。
ライトカオスの操りから開放され、俺の右手は自由になった。俺は、自分の意志で、発射ボタンを押した――。
…
気がつくと、私は夕日に照らされていた。
なんだか、物語中盤から終盤にかけての記憶がごっそり抜け落ちている気がする。気のせいだろうか。
「……」
瓦礫の山の中を、リュウがふらついた足取りで歩いていく。その表情は、憔悴しきっていた。彼に、何があったのだろうか。
「……俺は……」
リュウは立ち止まり、右の拳に強く力を入れる。
「俺は、いつかお前らを越えてみせる。……待っていろ」
意味深な呟きを残し、リュウは再び歩き出した。
紅に染まる天空の如く、煌々と燃え上がるひとつの想いを胸に、リュウは前へ歩き続ける――。
…
リュウが立ち去った後――。瓦礫の山の一部分が、がらがらと崩れ落ちた。
その中から、むくりと、二匹のチャオが這い出てきた。体中、煤だらけで、二匹とも真っ黒に見えるが、片方のチャオの頭上には輝く輪が浮いていて、もう片方のチャオの頭上には、青い火の玉が浮いていた。
「ふぅ……。まったく、合体している間は意識が飛んでしまうのが困りものだな。一体、どういう状況だねこれは」
「分かりませんが、あの怪獣もいなくなっていますし、とりあえずは一件落着したのでしょう。……街の被害を無視した場合の話ですが」
「はて、リュウ君の姿が見当たらんが。騒動が解決して、もう別れてしまったかな」
「リュウさん、決着がつけられなかったのは残念です。次に会うときまでに、お互い精進を続けましょう」
「さて、これからどうするかな」
「とりあえず、雨風を防げる場所確保するのが最優先事項かと思います……」