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(突然ですが、ここからはリュウ視点でお話が進みます。引き続き、『カオスをねらえ!』をお楽しみください)

 地の文が叫んだと同時に、強烈な地震が俺達を、いや、このビル全体を襲う。前後、上下関係なく体が揺さぶられ、立っていることもままならない。
「いかん!外に出るぞ!」
 そう叫んだのは、しばらくの間、全然全く一言もしゃべる機会の無かった、セラフだった。よく見ると、口元に涎の垂れた後がうっすら見える。寝てやがったなてめぇ。
「逃げるっていっても、どこから!」
 俺は大声でセラフに尋ねる。地震は激しい揺れだけでなく、地獄の底から這いずるような地鳴りと瓦礫の崩落する音が奏でる耳障りなBGMも鳴らし始めた。通常の声量では、とても相手には聞こえない。
「こっちに来るんだ! 緊急避難用の魔方陣がある!」
 さすが、ご都合主義の作者は話がわかるぜ。
 俺とセラフ、そしてアモンは、急いで魔方陣に飛び込んだ。



 魔方陣によって、ビルの外、ビルから数十メートル離れた場所にワープした俺達は、愕然とした。
 さっきまで超高層ビル――もちろん、今の今まで、俺とアモンが闘っていたビルである――が建っていた場所には、超高層ビルの姿は見受けられず、瓦礫の山がこれでもかというほど積まれていた。
 だが、さらに愕然とするべき光景は、街全体だ。
 人々の悲鳴が交錯し、道路には引っくり返った車が転がる。そして、倒壊したビルの数々……。
 作者の怒りが引き起こした大地震は、街に甚大な被害をもたらしたようだ。
「あーっ!」
 突然叫んだのは、セラフだ。
「バーガーショップ前の人形が、倒れている! 首がっ! 折れているぅー!」
 セラフは、確かにこう言ったのだ。俺の聞き間違いではない。
 確かに、この街一番人気の安くて早くて美味いバーガーショップの前にいつも立っている白ヒゲお爺さんの人形が、可哀想に地面に倒れ伏して、さらに首がもげて取れてしまっている。恐らくさっきの地震で倒れてしまったんだろうが……。
 だから、なんだ。
「奴が……復活してしまう!」
 セラフがそういった直後だった。
「ギャオオォォン!」
 その叫び声は、俺の体を魂から揺さぶり、脳を駆け巡り、目眩を引き起こす。後ろから聞こえてきたことだけはわかったので、俺は何事かと思い振り向いた。
 怪獣がいた。もう、間違いなく怪獣。
 二本の足で立っていて、東京タワーなんて目じゃないぐらいの大きさの怪獣。手の数も二本で、手にも足にも凶悪な長さ&太さの爪が、銀に輝いている。
 体の色は黒く、表面は岩場のようにゴツゴツしていると思われる。口からは、爪と同じように銀に輝く牙が生えていて、後頭部から背中、さらには巨大な尻尾に至るまで、白くて太いトゲが、ビッシリ生えていた。
 ここまで説明しておいてなんだが、今から身も蓋も無いことを言わせてもらう。ゴジラみたい。
 さぁ、この泣く子も黙る怒涛の超展開は、どこから処理していったらいいんだ。まずは、さっきのバーガーショップの人形の件からいこうか。
「セラフ、可能な限り簡潔にわかりやすく説明しろ。人形が倒れるとどうなるんだ。奴が復活するとは、どういうことだ」
「わかった、説明しよう。あれは、私がまだ若くてピチピチの、うぶで純情なティーンエイジャーだった頃……」
「……」
「悪かった、謝るから輪をちぎるのだけはやめてくれ」
「もういいです、僕がリュウさんに説明します。以前、僕とセラフで、あの人形に、『邪悪な者』を封印したんです」
「『邪悪な者』?」
「はい。『邪悪な者』は、引き上げても引き上げても、海に白ヒゲお爺さんの人形を投げ捨て続ける不届き者に対する怒りから生まれた、恐ろしい怪物です」
「……」
「『邪悪な者』は、生き物の負の感情につけこんできます。以前、ある人間の『ネット上で『卵』と略されることに対する怒り』という負の感情につけこんで、その人間の体を乗っ取り、この街を襲ったことがあります」
「……」
「その際、僕とセラフで『邪悪な者』を倒し、白ヒゲお爺さんの人形に封印したのですが……。先ほどの地震で人形が破損したせいで、封印は解けてしまったでしょうね」
 ハイスピードの説明をありがとう。改めて、この作品はホントに何も考えないで作られたんだな、と認識できたよ。
「まぁ、なんとなく理解した。理解したということにしておこう。で、今の話はあの怪獣と何か関係あるのか」
「関係も何も、あの怪獣が、『邪悪な者』の産物ですよ」
「なに?」
「つまり、あの怪獣の正体は、『邪悪な者』につけこまれた作者です」
「……」
 さて、邪悪な者云々の件だけで、四度目の鍵括弧三点リーダ鍵括弧閉じ。
「先ほど、僕と貴方でボロクソに貶してしまいましたからね。相当な怒りが地震を引き起こし、そのおかげで封印を解かれた『邪悪な者』が、怒り狂っている作者の負の感情つけこんだ、と」
「つまりは、街が瓦礫の山になってしまったのも、怪獣が出てきちゃったのも、俺たちの責任と言うわけか」
「そういうことです」
 突然だが読者の皆さん。今、貴方が考えていることをずばり当てて見せましょう。ずばり、『何これ?』

このページについて
掲載号
週刊チャオ第287号
ページ番号
8 / 12
この作品について
タイトル
カオスをねらえ!
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ第287号