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「まずはアモンが相手をする。先に立ち上がれなくなった方の負けだ。任せたぞ、アモン」
「わかりました。リュウさん、まずは僕がお相手します」
セラフに背中を、ぽん、と叩かれて、アモンが道場の中心付近に歩み寄る。悪魔のような外見とは裏腹に、礼儀正しい性格なのだと思われる。
リュウもゆっくり歩み寄り、両者は一メートルほど離れた場所で対峙する。
「リュウさん」
「なんだ」
「僕は……カオスと呼ばれるチャオの一つ、ダークカオスです。僕は、死ぬ思いをして、カオスになった。失礼ですが、貴方は僕に勝てない」
「やってみなくてはわからない」
「後悔しないでください」
お互いに、構える。
リュウは、両手の胸の辺りで揺らし、左足を少し前に出す。アモンも同じような構えだが、両手がリュウより若干高い位置にある。開始の合図は、セラフ。
セラフの右手が振り下ろされると同時に、両者は強烈な力で畳を蹴り出し、突進していった。
「せいっ!」
先に攻撃を仕掛けたのはリュウ。突進の勢いそのままに、ドラゴンの力を得た、大きな右手をアモンめがけて振り下ろす。しかし、開始直後の先制を狙ったとはいえ、それは無計画な攻撃だったと言わざるを得ない。
アモンは、体を沈めながら体ごと右に回転し、リュウのパンチをギリギリで避ける。その回転の勢いを殺さず、右足で回し蹴りを繰り出すアモン。大きく振りかぶった故に生まれた技後の隙を解消することはできず、リュウは回し蹴りを食らい数メートル吹っ飛んだ。ぽてっ。
「ちっ!」
吹っ飛んだリュウは、すばやく起き上がる。アモンは回し蹴りを放った位置から動いていない。深追いはしないということか。それとも、余裕があることを示したいのか。
「まだまだっ!」
叫びながら、リュウは再び突進。さっきと同じように、右手を大きく振りかぶる。
「同じことしかできないようでは、僕は倒せませんよ」
冷静に拳の軌道を見極め、今度は左に動いて避けようとするアモン。しかし、アモンの右頬を掠めて行くと思われた拳は空中でピタリと止まり、代わりに動き始めたのは、リュウの左の拳。
「せいっ!」
ややアッパー気味の、リュウの左手から繰り出された一撃がアモンの右の腹部にクリーンヒット。呻くような声を漏らし、今度はアモンが吹っ飛ばされる。ぽてっ。
「……ノーマルチャオのくせに、なかなかやりますね」
「まだまだ、勝負はこれからだ」
アモンはすくっと起き上がり、じわりじわりと間合いをつめる。
リュウも同じように、ゆっくり、ゆっくりと間合いをつめる。開幕の激しいぶつかり合いが嘘のように、道場内には、二匹の足と畳がこすれる音だけが響く。
しばらくの間、お互いが攻めあぐねる膠着状態に陥ったが、先に仕掛けた、と言うか我慢できなくなったのはリュウの方だった。一足飛びで懐に潜り込める距離になった瞬間に、リュウはあっという間に間合いをつめた。そして、両腕を駆使して、目にも留まらぬ速さでの連続パンチ。ぽてっ。ぽてぽて。
アモンは、両腕で顔を守り、リュウのパンチを冷静に捌き続ける。ぽてぽてっ。絶え間ない連続攻撃も、いずれは隙ができる。その隙を突くことこそ勝利への道。アモンは、どんな隙も見逃さぬように、相手の攻撃を裁き続けながら集中力を高めていった。