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「ここが、カオス道場……」
 ポツリとリュウは呟いた。
 リュウは現在、空気は不味く、車の行き交う音が耳障りなことこの上ない、大都会のど真ん中に聳え立つ、可能な限り首を上に向けても天辺が見えない程の、超高層ビルの真ん前で、途方に暮れていた。
 危ない師範から渡された地図によると、ここが『カオス道場』とやらの所在地で間違いないはずなのだが。
「ここが、カオス道場……ですか?」
 今度は尋ねてみる。周りには誰も何もいないので、当然返事は返ってこない。なんか無視されているみたいで可哀想だから、私が答えてあげましょう。わがんねー。
「(糞の役にも立たんな)仕方ない、入ってみるとしよう」
 あ。今、何か思ったでしょ。なんか悪口言ったでしょ。心の中で。ねぇ、ねぇってばー。



「チャオカンパニー本社ビルへようこそ、ご用件をどうぞ」
 リュウがビルに入ると、人間の女性――鮮やかな臙脂色の制服に身を包んだ、二十歳前後の若い女性だ。亜麻色の、軽くウェーブのかかったセミロングヘアーが柔らかな雰囲気を醸し出し、フロア中に染み渡るような落ち着いた声と、上品な物腰が育ちのよさを感じさせる。端正な顔立ちに加え、そのバランスの取れたプロポーションは、とりわけ男性ならば誰もが一瞬にして魅了されることだろう。通勤ラッシュの疲れも、彼女の笑顔を拝めばたちまち吹き飛ぶ。巷で噂の受付嬢、『チャオカンの女神』。ファンクラブへの入会絶賛勧誘中――に、出迎えられた。
 ちなみに、ダッシュとダッシュの間の文は、彼女を一目見た瞬間、リュウの脳内にて0,01秒で構築された文をそのまま写したものである。
「あの、ここにカオス道場があると聞いたのですが……」
「カオス道場ですね。それでは、こちらの魔方陣の上に乗ってください」
 人間の女性――鮮やかな臙脂色の制服に身を包んだ以下略――に促されて、リュウは、フロアの床に黒い線で描かれた、確かに魔方陣と言われればそれっぽい気がしないでもない、胡散臭さ100%のよくわからない丸い陣の上に乗った。
「あの……魔方陣ってなんですか」
「すぐにわかりますよ。人によっては酔う可能性があります、ご注意ください」
 魔方陣の外で、人間の女性――鮮やかな以下略――がそう言った。その直後だった。
 うぃんうぃんうぃん……
「!?」
 突然、不気味な音が鳴り出した。どこから鳴っているのかよくわからないが、なんとなく足元から嫌な予感が漂ってくる。
 なんかやばそう。リュウが魔方陣から離れようとしたとき、魔方陣はそれを許さなかった。
「うわっ!」
 リュウの体が、突然、右回りにえらい勢いでぐるんぐるん回りだす。そして、ぐるぐる回りながら、リュウの体が魔方陣の上から跡形も無く消え失せる。
 消え失せた当の本人は、今いったい自分がどうなっているのかまったく把握できず、頭も体もぐるぐるでグロッキー寸前。それに加え、なにやら体の奥底からこみ上げてくるものが。
「もうダメだ、食事中の皆様ごめんなさい」
 リバース5秒前。4、3、2……。リュウが限界突破を迎えようとしたとき、突然回転が止まった。
「ここはどこだ」
 どうやら、まだビルの中にいるようだが、隣にいたはずの人間の女性――以下略――は居ないし、さっきいた場所と全然違う。
「これはきっと、同じビル内でワープしたに違いない。魔方陣とか言っていたし」
 飲み込み早いぜ。そのとおり、リュウはビルのロビーから、同じビル内の別のフロア、別の部屋にワープしてきたのだ。ちなみに、リュウの足元にはさっき見たのと同じ魔方陣が描いてある。一旦ジンの外に出て、もう一度入りなおせば、今と同じようにロビーにワープするのだろう。
「と、いうことはだ。この部屋にも別の魔方陣があるはず。それを見つけて、ワープを繰り返していけば、きっとカオス道場に辿り着げぼぁ(自主規制)」
 食事中の皆様、ごめんなさい。そうでない方も、ごめんなさい。
「はぁ、はぁ……。と、とにかく、別の魔方陣を……」
 苦悶の表情を浮かべて、這いずるようにして魔方陣の探索を始めるリュウ。しかし、そう簡単にはいかなかった。
「まてっ!そこの怪しいチャオ、僕と勝負しろ!」
 何者かに呼び止められたリュウ。相手にしている暇も気力も無いので、リュウはスルーしようとする。しかし、相手はかまわず続ける。
「僕はサイキッカー!超能力者だ!さぁ勝負しろ!」
 自らを超能力者だという、十歳ぐらいの人間の男の子。手のひらの上で、何故かルービックキューブをふわふわと浮かせていた。

 サイキッカーがしょうぶをしかけてきた!

 たたかう  どうぐ
 ポケモン →にげる

「こらっ!逃げるなっ!」
「うるさい、お前と遊んでいる時間は無いんだ。というか、体力が無い。魔方陣、魔方陣と……。お、あった」
 リュウは、両手両足で這いずって、無様に魔方陣へ到達。さっきと同じように回転開始、あっという間にワープして行った。
「あばよ! ……うぇ、気持ち悪」
「卑怯者ー!スプーン曲げたり、トランプの種類言い当てたりできるんだぞー!」
 後者は手品だ。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第287号
ページ番号
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この作品について
タイトル
カオスをねらえ!
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ第287号