第1章 44、トル・シルバース
白龍は白い繭が消えるのを見届け、トルの頭の上に乗った。
トルは病室を後にした。
トル (僕は・・・・・本当に・・・・?)
白龍 「きゅうぅ・・?」
トル 「気にしないで、白龍。
早く行こう・・・」
白龍の頭を優しく撫でた後、トルは廊下の窓から外に飛び立った。
・・・・・・トルの過去
僕がこの世界に生まれる前、僕は暗闇の中にいた・・・。
一片の光も入り込まぬ、暗闇に・・・・。
光の届かないその暗闇の中で、初めてその声を聞いた。
まだ、何も知らない僕には、それが誰の声かはわからなかった。
闇の中ではっきりと聞こえるその声に、僕は静かな気持ちで耳を傾けていた。
『この力をお前にやろう、全てを叶える大いなる力を・・・』
その声が聞こえると、僕の中の闇に一筋の細い光が差し込んだ。
白く、まばゆいその光を僕は手を伸ばした。
『好きに使うがいい、その力はお前のものだ
新たな世界を創るも良し、気の済むまで破壊を繰り返すも良し
天使となり人に幸を与えるか、人に死を与える死神となるか、全てはお前の自由だ』
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
「・・・・なりたい」
『何に?』
「人を救う、天使に・・・なりたい・・・」
僕は、自分でも知らないけどそう願い、そう答えていた。
まだ、何も知らないはずの僕は・・・何故か・・・・。
『・・・・・・いいだろう。・・・ならば、お前には翼を授ける』
細い光の筋は、一気に大木のように太く、強さを増した。
僕を包んだ闇は光に照らされ、白い世界が広がっていく。
『大空を舞うがいい
お前は自由だ』
「・・・じ・・・ゆう・・・」
やがて、白い光の波が僕を飲み込み、まばゆい光の中で僕は生まれた。
この世界に。
トル 「今思えば、お礼を言わなかった。・・・言えなかった・・・」
白龍 「・・・・・君もあの方に力を、命を授かったんだ・・・・」
トル 「白龍・・・。僕・・・本当に天使なのかなぁ・・・。
生き物の命を奪って・・・本当に・・・天使なのかなぁ・・・?」
白龍は実は喋る事ができる。
言葉も授かっていたのだ・・・。
トルに力を与えた・・・誰かに・・・・。
トル 「チャロさんに入れられた闇の力・・・・。
僕、どうしよう・・・?」
トルは廊下から飛び立つ前・・・。
チャロの病室に行き、真・闇の力を抜いておいたのだ。
チャロの記憶も、戻しておいた・・・。
今頃、チャロは基地に戻っているだろう。
皆の所へ・・・。
基地―
ホタル 「チャロさん!」
アルティメット 「意識が戻ったのですか!」
チャロ 「あぁ・・・。心配させてすまなかった」
チャロは記憶もしっかり戻っている。
皆は安心した。
エンエン 「そういえば誰かトル君見なかった!?」
エンエンが皆に問いかける。
カイオウ 「知らねぇぞ」
ハデス 「(トル君が・・・危険だ・・・)」
ハデスとハガネは一応基地に呼ばれていた。
黒龍 「きゅう!きゅう!!」
タナトス 「・・・・・白龍もいませんね・・・」
タナトスは基地に戻った後、すぐ気が付いたようだ。
ヒュプノス 「兄ちゃん・・・」
ヒュプノスもB隊員が逝った事により元に戻った。
ホタル 「ハデス君!今、トルがどこにいるか分かる?」
ハデスは首を振った。
ハデス 「(ただ分かるのは・・・。
トル君が飛んでいるのは山の上・・・。神殿・・・。
神の像・・・。・・・・・・・分かった!
オリュポンス山のオリュポンス神殿!何か大きな邪悪なる力を持っている・・・・。
・・・・・・その力は・・・)」
メイコ 「チャロに入れられた真・闇の力だ」
その頃―
トル 「ガイアさん・・・・。この存在してはならぬこの悪の力、一体そうすればいいでしょうか・・・?」
トルはオリュポンス山の頂上に居た。
ガイア=地の女神(別名、母なる大地)
『・・・・・小さなこの世界の勇者、トル。その力、原始からの存在タルタロス(暗黒界)に収めなさい。
ここまでよく来ました』
地から声がする。
すると横に亀裂がはいり、穴が開いた。
その穴は先が見えぬ程真っ暗で、寒い雰囲気がした。
トルは黒い塊を、真・闇の力を、タルタロスにそっと入れた。
トル 「有難う・・・。ガイアさん・・・・・・」
『トルに栄光あれ』
その亀裂はふさがった。
トル 「あれ、白龍?どこ?どこ行ったの?白龍ーーーーー!」
白龍がいつの間にか居なくなっていた。
? 「此処だ」
神殿の中に誰かが居た。
手には白龍が暴れている。
続く